メルセデスAMG SL 詳細データテスト 高めた走行性能 失われた洗練性 今後の改善と熟成に期待

公開 : 2023.08.05 20:25  更新 : 2023.08.22 22:56

結論 ★★★★★★★☆☆☆

メルセデスはここ最近、多くの根強い人気を誇るモデルを再定義する大胆な決断をいくつか下してきた。それも、無情にも過去の成功を軽視したような。まさにSLは、そうした方向性で無理矢理変化させられたクルマのように思えてしまう。

シャシーとドライブトレインの新技術は、間違いなくSL63を、スポーツカーとしてより有効なものにしている。もしシュトゥットガルトの狙いがSLの保守的なオヤジくささを払拭し、より若い顧客層を取り込むことにあるのなら、シャシーの刷新や総合的なインフォテインメント技術の導入、ドラマティックなパフォーマンスのV8の搭載は、ターゲットに刺さるはずだ。

結論:得たものも多いが、犠牲にしたものもまた多い。みごとなV8をもってしてさえ、それを挽回できてはいない。
結論:得たものも多いが、犠牲にしたものもまた多い。みごとなV8をもってしてさえ、それを挽回できてはいない。    JOHN BRADSHAW

しかし、SLを乗り継いでいるオーナーなら、洗練性や乗り心地に大きな不足があることを見抜くだろう。SL63はそのどちらも、歴代SLの基準に照らせば本当にプアだ。とはいえ、高級GTとしては静粛性も快適性も平均レベルなのだが。

メルセデスの賭けは、乗り心地を犠牲にして長年の乗り継ぎ組がひとり抜けても、鋭いハンドリングで新たなファンがふたり増えればいい、という考えだろう。それは冒すべきリスクかもしれない。しかし、新型SLには、よりよいクルマへ仕上げるために、なすべき仕事がまだ残っている。

担当テスターのアドバイス

イリヤ・バプラート

ソフトトップを閉めると、カブリオレの肩越しの視界は個人的に大きなネックとなる。しかし、SLはそれほど悪くなかった。リアウインドウはまずまずのサイズで、サイドウインドウは死角が最小限に抑えられる大きさがある。

マット・ソーンダース

以前のロードテスト担当者が、SL55は1.6kmのテストコース内で、ゼロスタートから250km/hに達し、完全制止して、もう一度トップスピードに達することができると言っていた。信じていなかったが、このSL63なら余裕を残してそれができた。

オプション追加のアドバイス

SLのルーツに敬意を払い、55 4マチック+の黒塗りのボディトリムやホイールを装着しないツーリングプラス仕様を選んで、ボディカラーは明るいメタリックにしたい。2500ポンド(約46万円)のドライビングアシスタンスパッケージは付けておこう。

改善してほしいポイント

・四輪操舵とアクティブアンチロールの設定は改善を続けて、よりナチュラルでコミュニケーション性の高いハンドリングに仕上げてほしい。
・乗り心地の粗さをもう少し是正してほしい。SLを乗り継いできたオーナーは、もっと快適なクルマを好むはずだ。
・マテリアルのリッチさや、キャビンのお高そうな感覚を高めてほしい。トップレベルのデジタル技術だけでは十分ではない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    英国編集部ロードテスト・エディター
  • 執筆

    イリヤ・バプラート

    Illya Verpraet

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    関耕一郎

    Kouichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

関連テーマ

おすすめ記事

 

人気記事