メルセデスAMG SL 詳細データテスト 高めた走行性能 失われた洗練性 今後の改善と熟成に期待

公開 : 2023.08.05 20:25  更新 : 2023.08.22 22:56

走り ★★★★★★★★★☆

585ps/81.6kg-mというSL63のスペックは、その狙いをはっきりと主張している。もっとパワフルなオープンカーがほしければ、ポルシェ911ターボSカブリオレをはじめ、アストンマーティンV12ヴァンテージや12気筒のベントレー・コンチネンタルGTC、フェラーリ・ローマ・スパイダーを選べばいい。しかし、諸元表を見る限り、加速性能で上回るものはほとんどない。

それは、実際の加速テストでも同様だ。実効的なローンチコントロールや4WDシステムを備えるこのSL63、温暖な環境下での計測では、0−97km/hが3.5秒、0-161km/hが7.8秒だった。

4WDとローンチコントロールにより、パワーで勝るクルマより優れた加速性能を発揮する。スーパーカーメーカーのような高回転での演出はないが、低音の雄叫びはみみを楽しませてくれる。
4WDとローンチコントロールにより、パワーで勝るクルマより優れた加速性能を発揮する。スーパーカーメーカーのような高回転での演出はないが、低音の雄叫びはみみを楽しませてくれる。    JOHN BRADSHAW

アストンマーティン・ヴァンテージF1エディションは、2021年にクーペをテストしたが、SL63より遅かった。659psのベントレー・コンチネンタルGTスピードはコンマ1〜2秒早かったのみだが、これもクーペの数字だ。

SL63を以前にテストしたのは2008年だから、2世代前になるのだが、161km/hまでの加速タイムは2.6秒も余計にかかっている。

加速性能に関しては、AMGがゼロから開発したことで、容易ならない結果が生まれている。また主観的には、585psが十分すぎるように感じられる。というのも、もっともワイルドな仕様であってさえ、SLは熱中できるスポーツカーであると同時にグランドツアラーでもあるからだ。

そのSLの美点と切っても切り離せないのが、V8エンジンだ。唸りを上げて存在を誇示するホットロッド的な魅力が、どんな速度域でも楽しめるのが大事なのだ。

新型でも、パンチは強烈で、スムースに力を発揮しながらもV8らしいドラマティックさを持ち合わせている。低回転から高めのギアに固定すると、そのドラマティックさの第1段階が味わえる。全開で回転計の針が2500rpmを超えると、V8を武装するターボが目を覚まし、四輪へ強烈に太いトルクを送り込む。

フルスロットルでの怒涛のエンジン回転の高まりを乗り越えても、エンジンはとにかくハードに車体を引っ張る。勢いが収まりはじめるのは6000rpmを超えてからだ。よその高性能エンジンがみせるような、高回転域での芝居が勝った演出は省かれているが、それでもパフォーマンスもサウンドも楽しめる。もっともうるさくてスポーティな走行モードを選べば、4本出しのテールパイプはバリトンの雄叫びを上げる。

9速ATもまたすばらしい。マニュアルモードでのパドル変速はすばやく、Dレンジでのスムースさは、AMGがついに自動湿式クラッチをあきらめてトルクコンバーターを積んだか、と勘違いするほどだ。

ただし。S+とレースの各モードで見せる、減速時の自動シフトダウンこそやや唐突さを感じる。また、運転を楽しみながら何速に入っていて、次に何速に入れるべきかを追うには、9速ギアボックスはやや段数が多い。テスター陣がマニュアル変速をしたがったから、そう感じられたのではあるが。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    英国編集部ロードテスト・エディター
  • 執筆

    イリヤ・バプラート

    Illya Verpraet

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    関耕一郎

    Kouichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

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