メルセデスAMG SL 詳細データテスト 高めた走行性能 失われた洗練性 今後の改善と熟成に期待

公開 : 2023.08.05 20:25  更新 : 2023.08.22 22:56

操舵/安定性 ★★★★★★★☆☆☆

スポーツカーとしては息苦しさがあったかもしれないが、1.9tの重量は競合する高級コンバーティブルに対して大きなディスアドバンテージにはなっていない。最新のスポーティなGTとしては、手に負えないほどの重荷ではないのだ。

実際のところ、スティールのコイルサスペンションは、メルセデスAMGが新たなプライオリティをもって行ったチューニングもあり、運動性に大きすぎるほどの進歩をもたらしている。

よりスポーティで、重量を感じさせない走りを身につけたが、荒れた路面への適応力は低い。さまざまなモードを試しても、スイートスポットが見つからなかった。
よりスポーティで、重量を感じさせない走りを身につけたが、荒れた路面への適応力は低い。さまざまなモードを試しても、スイートスポットが見つからなかった。    JOHN BRADSHAW

なにより、かつてのSLに見られたアシスト過多で粘っこいフィールのステアリングは姿を消している。よくも悪くも、歴代モデルとは違う新型の乗り味とマッチしている。ボディコントロールも、一貫性が増したものになっている。

新型SLは、歴代モデルより運動性でライバルと競い合えるドライバーズカーになった、ということもできる。しかし、SLらしさが薄まって、ロケットのように加速するアームチェアのようではなくなった、ともいえる。ここ20年ほどのホットなSLに乗ったときと同じくらい、奇妙な感覚だ。

それらは乗り心地が硬く、うるさく、しなやかさに欠けるクルマだった。速いけれど快適なものを求める、これまでのノーマルなSLのオーナーの好みには合わないものだったわけで、新型もそうなる可能性はある。

平滑な路面であれば、状況はかなりいい。ナチュラルなハンドリングの澱みなさに欠けるところは多少あるが、たしかに予期したよりもわずかながら俊敏で正確なコーナリングを見せる。上下方向にも横方向にも、質量をきっちりコントロールしていて、飛ばしても安定していて安心感がある。

ところが、英国の典型的なB級道路に入ると豹変し、順応性の欠如が露呈する。やや多すぎる課題をこなそうとしているクルマのようになってしまうのだ。

コンフォートモードではソフトすぎて、足回りはぎこちなく減衰不足のようになり、速度が上がるとストロークが尽きて、崩れるように沈み込む。対してS+では、引き締まりすぎて抑え込みが強くなる。サスペンションが、シャシー固有の振動数を超えて作動しようとすると、乗り心地にやや過敏さや破綻しやすさが出て、納得できる成果を得られない。

グリップやハンドリングの正確さは有り余るほどなのに、ハイスピードで山岳路などをドライブすると、SL63のシャシーは決して落ち着くことがない。このパワートレインなら容易に維持できるようなペースであってもだ。

同じく、持ち前のバランス感を存分に見せてくれることもない。ドライビングに熱中できない、と言い換えてもいい。飛ばすのには文句なしのデバイスであるはずなのだが、そうであるべきほどの満足感は味わえないのだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    役職:ロードテスト編集者
    AUTOCARの主任レビュアー。クルマを厳密かつ客観的に計測し、評価し、その詳細データを収集するテストチームの責任者でもある。クルマを完全に理解してこそ、批判する権利を得られると考えている。これまで運転した中で最高のクルマは、アリエル・アトム4。聞かれるたびに答えは変わるが、今のところは一番楽しかった。
  • 執筆

    イリヤ・バプラート

    Illya Verpraet

    役職:ロードテスター
    ベルギー出身。AUTOCARのロードテスターとして、小型車からスーパーカーまであらゆるクルマを運転し、レビューや比較テストを執筆する。いつも巻尺を振り回し、徹底的な調査を行う。クルマの真価を見極め、他人が見逃すような欠点を見つけることも得意だ。自動車業界関連の出版物の編集経験を経て、2021年に AUTOCAR に移籍。これまで運転した中で最高のクルマは、つい最近までトヨタGR86だったが、今はE28世代のBMW M5に惚れている。
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    関耕一郎

    Kouichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

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