シート高とウォッシャータンク アルピーヌA110 長期テスト(4) 抜かりない軽量化

公開 : 2023.08.20 09:45

積算1万1711km 滑りやすい路面でも頼もしい

滑りやすい路面で、適切なクルマとはなんだろう。電子アシスト満載の、大型SUVはきっと頼もしい存在になるだろう。

しかし、リアアクスルの直近にエンジンを搭載した、軽量なクルマも安定した走りを披露する。タイヤへ加わる負荷は、制御可能な範囲に留めることが重要といえ、発進や停止、旋回時に加わる質量が小さい方が安定性は増す。実はA110も頼もしい。

アルピーヌA110(英国仕様)
アルピーヌA110(英国仕様)

積算1万1766km 小さなウォッシャータンク

アルピーヌA110は、軽量化に抜かりがない。先日、空になったウォッシャー液を補充したのだが、改めてそう感じた。些細なことで、とお思いかもしれないが、少しお付き合いいただきたい。

A110は、人間が快適に移動できる範囲で車重を削りつつ、スーパーカーに乗るような富裕層でなくても手が出せる価格帯へ抑えられている。900万円のクルマと、その5倍の値段のクルマとでは、カーボンやチタンを用いることの意味は大きく違う。

アルピーヌA110(英国仕様)
アルピーヌA110(英国仕様)

コストを増やさず軽くするには、エンジニアが知恵を絞る必要がある。隅々までスマートな設計が施されているという事実を、ウォッシャータンクからも見て取れる。

特別な素材は用いられていない。ありきたりなプラスチックとゴムだけ。しかしアルピーヌは、多くのクルマの場合、ウォッシャー液が望んだ場所へ噴出されなかったり、ワイパーが吹く前にガラスから流れ落ちてしまうという事実へ着目した。

ある程度のウォッシャー液は、無駄に消費されてしまう。そのため、タンクは必要以上に大容量になっている。

アルピーヌのエンジニアが編み出した解決策は、無数の穴を開けた専用ワイパーブレードを採用すること。必要な部分にのみ霧状のウォッシャー液が噴霧されるため、無駄を大幅に減らしガラスを綺麗にすることを可能にしている。

つまり、3.5Lのタンクと同じ仕事量を、1.5Lのタンクでこなしている。これで2kgの軽量化につながるわけだ。

軽さは好燃費にもつながる

ほかにも例を挙げると、サイドブレーキは、リアの通常のブレーキキャリパーを利用している。これでバネ下重量を2kg削っている。ブレーキラインの固定パーツも、スチール製ではなくアルミ製。僅か5gの違いだが、アルピーヌは有効だと考えた。

さらに、1100kgを切るという車重を叶えた最大の要因は、ボディ自体がコンパクトだから。主任技術者のデビッド・トゥーヒグ氏は、クルマの体積が1L増える毎に、車重は200g重くなると試算している。

アルピーヌA110(英国仕様)
アルピーヌA110(英国仕様)

その成果は間違いなく大きい。仕事柄、スーパーカーへ乗る機会は少なくないが、A110を運転すると毎回特別なクルマだと再確認する。しかも、多くの例よりドライビング体験は素晴らしい。

軽さは好燃費にもつながる。気ままに運転しても、14.0km/Lを下回ることはない。ガソリン代の高騰が続く現在では、想定以上の結果に繋がっていると思う。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アンドリュー・フランケル

    Andrew Frankel

    英国編集部シニア・エディター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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