大型バスからトライアンフまで ハリントン・マニア 英国コーチビルダーが産んだ7台 前編

公開 : 2023.08.27 07:05

今はなきコーチビルダー、ハリントン。大型バスからスポーツカーまで幅広く手掛けた歴史を、英国編集部がご紹介します。

馬が引く客車から大型バスへ

半世紀ほど前の大型バスやサンビームにご関心がなければ、恐らくハリントンという名前には耳馴染みがないだろう。映画俳優やプロゴルファーのことではない。

グレートブリテン島の南端、ホブという街に拠点をおいたコーチビルダーで、様々な乗り物に美しいボディを与えてきた。その作品たちは今でも多くの英国人を魅了し、ハリントン・ギャザリングというオーナーズミーティングが5年毎に開かれている。

サンビーム・ハリントン・アルパイン・シリーズC(1963年式/英国仕様)
サンビーム・ハリントン・アルパイン・シリーズC(1963年式/英国仕様)

2023年5月の会場になったのは、グレートブリテン島中部、バーミンガム郊外にあるワイソール交通博物館。前回同様、様々なクルマが一堂に会することとなった。

正式名称はトーマス・ハリントン&サンズ社で、創業は1897年。馬に引かれる客車の製造でスタートし、自動車の普及とともに20世紀初頭から事業をシフト。1930年にアールデコ調の新工場を竣工させ、以降は大型バスなど商用車を中心に手掛けた。

同社のデザインで特徴といえたのが、リアのルーフ部分に垂直尾翼のようなフィンが付いた流線形ボディ。これもまた、アールデコ様式の1つといえた。

1961年からスポーツカーにも事業を拡大

「そのようなデザインテーマは、1940年代から1960年代にかけて、ハリントンの特徴として受け継がれました。最後に作られたボディに至るまで」。と説明するのは、ウスターシャー州の博物館で学芸員を務めるデニス・チック氏だ。

「同じデザインが最後まで貫かれました。素晴らしい機械たちですね」

サンビーム・ハリントン・ル・マン(1961年式/英国仕様)
サンビーム・ハリントン・ル・マン(1961年式/英国仕様)

ハリントン社は収益源の多様化と、作業の高効率化を求めて、1961年からスポーツカーにも事業を広げた。その代表作といえるのが、サンビーム・アルパインをベースとしたクーペ。また、トライアンフTR4のクローズドボディも、忘れられない1台だろう。

しかし経営を立て直すのに充分な結果は得られず、1966年に廃業。ホブのワークショップも、既に跡形はない。今回は同社の功績を、7台のクルマとともに振り返ってみよう。

レイランド・チーター・ハリントン(1939年式)

オーナー:フレイザー・クレイトン氏

トーマス・ハリントン&サンズ社の代表作といえるのが、1930年代に製造されたテールフィン付きの大型バス。残存数は極めて少ないが、フレイザー・クレイトン氏が所有するレイランド・チーター・ハリントンは、その1台に該当する。

レイランド・チーター・ハリントン(1939年式/英国仕様)
レイランド・チーター・ハリントン(1939年式/英国仕様)

彼のバスは、1939年式のLZ5と呼ばれるモデル。ブルー・モーターズ社が運行し、週末の団体旅行で活躍したようだ。動力源はガソリンエンジンで、ルーフは巻取り式のカンバストップ。ブルーの塗装は、当時のものを再現してある。

「1991年に購入しました。わたしが所有しなければ、と強く感じた1台でした。ハリントンのボディはどれも素晴らしい。生まれた時代が違っていれば、もっと間近に見れたのに、と時々思います」。フレイザーが笑う。

「海岸に面したコーンウォールの町で、サマーハウス代わりに使われていたようです。購入した時は、ボロボロの状態でした」。と当時を振り返る彼は、レストアに9年を費やしたという。

ボディの下半分は大幅に作り直す必要があったそうだが、構造が複雑なグラスエリアやルーフ部分は、幸運にも無傷に近い状態が保たれていた。インテリアは、内装パネルの裏側に残っていたモケット生地を発見し、布地を復刻して張り直されている。

乗客用のシートは、現代的なハリントン社製のものが並ぶが、復刻した生地で仕立ててある。「イベントへ参加するのがメインです。今回は5時間かけて、サセックスから自走してきました。前入りでね」

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・カルダーウッド

    Charlie Calderwood

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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