大型バスからトライアンフまで ハリントン・マニア 英国コーチビルダーが産んだ7台 前編

公開 : 2023.08.27 07:05

サンビーム・ハリントン・ル・マン(1961年式)

オーナー:ジュリア・イェーツ氏、アンドリュー・イェーツ氏

ハリントン家は、英国の自動車メーカー、ルーツ・グループの子会社を経営しており、1961年からグループ傘下にあったサンビームのモデルへ独自ボディを与えた。その初作が、2ドアスポーツのアルパイン・シリーズIIをベースにしたファストバックだ。

サンビーム・ハリントン・ル・マン(1961年式/英国仕様)
サンビーム・ハリントン・ル・マン(1961年式/英国仕様)

設計は若干ぎこちなかったのの、完成度は低くなかった。1年足らずで約110台が売れ、新事業へ期待を抱かせることになった。

その後に提供されたのが、このサンビーム・ハリントン・ル・マン。リアまわりを新たに作り変え、美しいハッチバックを備えたルーフラインを実現させた。

イェーツ夫妻のクルマは、発売間もない1961年式。「記録を辿ると、17番目に完成したル・マンのようです。後年のクルマと異なる部分が多く、初期のボディであることは間違いないでしょう」

「ハッチバックの開閉機構やシートのスライド部分、アームレスト、センターコンソールなどが、多くのル・マンと違うんです。初期のクルマは、かなり技術的な手間を投じて作られたようですね」。とアンドリューが説明する。

彼は、オリジナルのサンビーム・タイガーも所有するマニア。以前のオーナーが手放すことを決断するまで、3年も説得し続けたらしい。

アンドリューが購入後は、活発なオーナーズクラブが存在するアメリカから部品を取り寄せ、レストアへ着手。「ハリントン・タイガーを作ろうかとも思いましたが、貴重なクルマなので、オリジナル状態を尊重しました」

「正しく復元するため、慎重に調べています。卵型のフロントグリルと、丸いヘッドライトが特徴です」

サンビーム・ハリントン・アルパイン・シリーズC(1962年式)

オーナー:デレク・ヒューイットソン氏

ハリントン・ル・マンでアルパインのリアまわりを手掛けた同社は、製造の効率性を保ちつつ、より優れたリアハッチになるよう開口部を再設計。ハリントン・アルパイン・シリーズCを完成させた。

サンビーム・ハリントン・アルパイン・シリーズC(1962年式/英国仕様)
サンビーム・ハリントン・アルパイン・シリーズC(1962年式/英国仕様)

「これは、現在残っているアルパイン・シリーズCのなかで最初期のクルマだと考えられています」。と説明するのは、オーナーのデレク・ヒューイットソン氏。

「初代オーナーは、強引な女性だったようです。1962年のロンドン・モーターショーで、展示車両が欲しいと要求したらしいのですが、ハリントン側は同意しませんでした。しかしその後、まったく同じクルマを彼女へ製作しています」

「つまり、モーターショーに展示された完璧なコピーがこれです」。と笑みを浮かべるデレクは、1984年から40年近く大切に維持してきた。もともとは、状態の良いボルボP1800を探していたという。

「初めは、このクルマが何なのかわかりませんでした。それでも好きになって、購入後に調べてみたら貴重さに気付いたんです」。1987年にレストアへ着手し、かなりの費用を投じたそうだ。現在も、仕上がった時の状態が保たれている。

メカニズムは、基本的にサンビーム・アルパインと同じ。メンテナンスはさほど難しくないというが、珍しいクルマだけに問題はゼロではない。

「オーバードライブ・スイッチは、30年近く探し続けています。オプションだったブレーキサーボ・ユニットが装備されていましたが、交換用のシール部品がなく、現在はガーリング社製の別ユニットを組んでいます」

この続きは後編にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・カルダーウッド

    Charlie Calderwood

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

大型バスからトライアンフまで ハリントン・マニア 英国コーチビルダーが産んだ7台の前後関係

前後関係をもっとみる

関連テーマ

おすすめ記事

 

人気記事