ポルシェの合成燃料はガソリンの代替となり得るか 大気中のCO2を使用 今後の可能性は

公開 : 2023.08.15 18:45

ポルシェは、大気中のCO2と水素から作られる合成燃料「eフューエル」に多大な投資を行っています。環境への影響が少ないとされる合成燃料は、従来のガソリンの代わりとなり得るのか。その可能性を考えます。

内燃機関を存続できる? ポルシェのeフューエル開発

ポルシェは2年前、2022年までにガソリンの代替となるCO2ニュートラルに近い合成燃料の製造を開始すると発表した。現在、チリ南部のパタゴニア地方で進められているパイロット・プロジェクトでは、年間13万Lの「eフューエル(e-fuel)」を製造し、今後10以内に年間5億5000万リットルに増やす計画だ。

持続可能な燃料をめぐる用語は紛らわしいので、まずはその点を整理しておこう。ポルシェのeフューエルは空気と水を原料としており、エタノールや菜種油から作られるようなバイオ燃料ではない。

eフューエルを1L作るには、3Lの淡水と6000立方メートルの空気から抽出したCO2が必要となる。
eフューエルを1L作るには、3Lの淡水と6000立方メートルの空気から抽出したCO2が必要となる。

eフューエルは、使用面においては従来の石油由来の燃料とほとんど同じである。eフューエルは合成炭化水素であり、エタノール(飲み物に含まれるものと同じ)のようなアルコールではない。数年前に流行した廃食用油から作るバイオディーゼルとも無関係だ。

プンタ・アレナスという場所が選ばれたのは、人里離れた場所で風が非常に強いため、風力発電に最適だからだ。ポルシェは、この場所で年間270日間、風力タービンを最大稼働させることができると見込んでいる。

この風力タービンは、水を水素と酸素に分解するための電気を生み出す。ポルシェが求めているのは、この水素である。

もう1つ必要なのがCO2(二酸化炭素)であり、貴金属触媒コンバーターを使用しない化学プロセスによって空気中から回収される。水素とCO2を合わせてメタノール(アルコールの一種)を作り、それを合成して合成ガソリンを作る。

ガソリンや軽油の代替燃料として調合され、従来の燃料と混合することができる。1Lのeフューエルを作るには、3Lの脱塩水と6000立方メートルの空気から抽出したCO2が必要である。

このような合成燃料は新しいものではない。例えば、アウディはジュール社と協力してメキシコに工場を設立し、廃水中の無害なバクテリアから生成したエタノールを使って合成燃料を製造している。

eフューエルのような合成燃料が世界規模で内燃機関を存続させ、バッテリーEVやその他の代替燃料に移行する必要性をなくす可能性はあるのだろうか? 絶対にないとは言い切れないが、今日使用されている化石燃料の量は膨大だ。米エネルギー情報局によると、例えば英国では昨年、1日あたり27万4700バレルのガソリンが消費された。これは約4300万リットルに相当する量だが、これでも世界の消費量の平均以下である。

ポルシェがチリに建設した工場のポテンシャルが最大になれば、そこで1年間で製造されるeフューエルは、すべての英国国民が2週間弱生活するのに十分な量となる。プラス面では、持続可能な発電に基づく新しい企業が合成燃料を製造する可能性は計り知れない。

例えば、スコットランドでは発電量の54%を風力発電が占めている。そこで進行中の拡張計画には、オフピーク時の余剰電力の貯蔵媒体として、合成燃料の主要成分の1つである水素を生成することも含まれている。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェシ・クロス

    Jesse Crosse

    英国編集部テクニカル・ディレクター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    平成4年生まれ愛知在住。幼少期から乗り物好き。住宅営業や記事編集者といった職を経て、フリーランスとして自動車メディアで記事を書くことに。「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。

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