ポルシェ718ボクスターT試乗 ニューバランスでドライブしたい
公開 : 2023.08.15 20:45
ポルシェ718ボクスターTの試乗記です。RSやGTSと違う、「T」にしかない愉しさを探りました。
アルファベットに紐づいた想像力と魔力
ポルシェ乗りの編集者、T君からラインが入った。「今度ボクスターTを借りるので、ぜひ乗りましょう! いいですよね、T!」。彼はTという部分に興奮しているようだ。たったアルファベットひと文字で熱くなれる。商売上手なポルシェにコロッとやられてしまっているクチである。
とはいえ僕も、そのTというグレードが気になって、色々と調べはじめてしまった。「RS」と言われたら、調べるまでもない。「ああそうですか、了解しました」という感じ。でも素の718ボクスターでも、全部載せのGTSでもなくTというのが、なんだか気にかかる。
古くからのポルシェ・ファンであれば、Tといえばナローに設定されていた911 Tを指す。その一文字が指し示すところは「ツーリング」。ところが実際の911Tは何もついていないシンプルなグレードだった。それが神格化したのは、ベーシック=軽い→レースカーのベース車両として用いられた史実ゆえである。
そういえば以前、911やケイマン、そしてマカンのTにも乗せてもらったことがある。「シンプルな構成でドライビングプレジャーを満喫するためのモデル」とかいう説明だったと思うのだが、こと911に至ってはバケットシートやら何やら色々とオプションが追加されていて、賑々しかった記憶がある。
「断捨離しましょう!」とか提案しておいて、部屋がキレイになったら今度は「大きなソファー買いましょう!」みたいな。今どきのポルシェのTは、そんな戦略なのかもしれない。
必要以上のヤル気ナシ 絶妙な立ち位置
大黒パーキングエリアに屋根を閉じた黄色いボクスターがやってきた。あれがTだ! と直観的に思った。塗料に含まれる顔料は、濃い方が色々と入っていて原価が高いと聞いたことがある。黄色というのはだから、たぶん安い方。でも白ではなく黄色というあたりに「シンプルだけど、走りの楽しさに特化したモデル」、つまりTらしさが漂っている! などと勝手に決めつけていた僕は、既にポルシェにコロッとやられていることに、今気がついた。
それにしても今回のTは絶妙だ。試乗車はPDKではなく6速MT、そしてもちろんフラット4ターボを搭載しているという点でプリミティブな匂いがする。個人的には標準で20インチタイヤはいらないなぁ、とか思ったのだけれど、そのヘンペー具合がバレないように(?)ホイールが黒く塗られているのがありがたい。T乗りたるもの、必要以上にやる気を見せたくないのだ(←オーナー目線)!
大黒PAに止めていると、RSのようにBMWのM乗りがわざわざ寄ってきたりしない涼しさがいいし、でもGTSのように「オプション選びが面倒くさかったので」という大雑把な感じもしない。
Tには「それなりに歴史やスペックを踏まえた上で、敢えてコレを選ばせていただきました」感がにじみ出ている、と思うのは僕だけだろうか? いや、いつもレーシーなプーマではなくニューバランスを履いているT君も似たような意見だろう。
乗る前から良車認定してしまいそうな718ボクスターTだが、本当のところはどうなのか? そこはやはり乗ってみないと。