残したいV8+FRのスポーツ レクサスLC フォード・マスタング ジャガーFタイプ 3台乗り比べ 前編
公開 : 2023.08.26 09:45
美声コンテストをしたらLC 500が優勝
比較的手頃な価格帯にある、パワフルで実用的なスポーツカーにV8エンジンが載っていることは、理にかなったことといえる。まず、V8エンジンは小さく軽量に仕上がる。ボンネット内の空間を効率的に使え、短いクランクシャフトで高回転・高出力を狙える。
バンク角を大きくしシリンダーを傾ければ、エンジン高を抑えられる。重心位置を低くでき、必要に応じてターボチャージャーやスーパーチャージャーを組む余裕も残る。
これをフロントに搭載すると広いキャビンが生まれ、充分な荷室も確保できる。ガソリンタンクの配置に困ることもない。客観的ではないかもしれないが、聴き応えのあるサウンドも楽しめる。
今回の3台で美声コンテストを競わせたら、恐らく優勝を掴むのはLC 500だろう。ハイブリッドが売りのレクサスのことを、優れたV8エンジンを作るブランドだとはイメージしにくいかもしれないけれど。
レクサスの2UR-GSE型ユニットは、音響的にも磨かれている。見事に調律された音色が、感覚を強く刺激する。ゴロゴロとザラついた、いかにもマッスルカー的なフォードとは違う趣向で。
自然吸気だから、ハイパワーを引き出すには高回転域まで引っ張る必要がある。そこまでの上昇中に、メカニカルノイズやエグゾーストノートの重なりを鑑賞する時間が生まれる。環境保護団体から、警告を受けるかもしれないが。
5.0Lの排気量を考えると、4500rpm以下ではやや非力。だが、それ以上の回転域では豹変したようにパワーも漲る。
異なる音響体験で満たすマスタング
ドライバーがアクセルペダルを踏んでいれば、10速ATが静静と次のギアを選ぶ。内装の素材は高級感に溢れ、日本人らしい丁寧さで仕立てられている。それでいて、高回転域でのエネルギッシュさは凄まじい。
7000rpmへ迫るほど、ドラマチックさが高まる。映画「フィフス・エレメント」の宇宙人歌手によるオペラのような、唯一の体験が待っている。シフトパドルを弾いて回転域を保ち続けるよう、ドライバーを誘惑する。
他方、マスタング・マッハ1はドライバーの関与がより求められる。シンプルさや実直さが、このモデルの売り。乗り心地は低速域で硬めで、荒れた路面の質感が伝わってくる。トレメック社製の6速MTを操るレバーは、ストロークが短めながら手応えが重い。
入り組んだ市街地を運転していると、広大な場所へ向かいたいと感じるはず。それでいい。長い歴史を受け継いだ、マッスルカーなのだから。
開けた道で右足へ力を込めると、オールドスクールな吸気音が車内へ充満する。アグレッシブでリアル。回転数の上昇とともに、野性味が表出する。
マスタング・マッハ1に搭載されるコヨーテ・ユニットは、シェルビーGT350用の吸気系とスロットルボディ、ボアアップされたブロックで構成され、爽快な咆哮を放つ。LC 500とは異なる音響体験で満たしてくれる。
聴覚的な豊かさや個性で、マスタング・マッハ1はLC 500に劣らない。同等の最高出力を、半分の価格で手にできるという事実にも唸ってしまう。
この続きは後編にて。