ポルシェ・パナメーラ4S
公開 : 2014.01.26 18:22 更新 : 2017.05.29 19:05
パナメーラというクルマを前にすると、いつも考えてしまう。こういう自動車が存在する意味はどこにあるのだろうかと。セダンあるいはサルーンと呼ばれるクルマの拠って立つところは年々曖昧になってきている。居住性というならミニバンのほうが客室容積は広い。4枚のドアとトランクを持つ形態の自動車はフォーマルな用途の移動機械として扱われるというところにしか立脚点はないのだ。ところがパナメーラはドアこそ4枚だが後ろはハッチバックであり、それだけならルノー25やサフランがハッチゲートを持ちながら仏大統領公用車として使われたという故事があるが、こちらの場合は後席が左右席へと完全に独立した2座で、その点からフォーマルの枠組みから外れる。アウディのEセグメントたるA6には、リヤをハッチバック化したA7があるが、A6という本筋がいるから、これは派生的バリエーション展開だと理解できる。だがパナメーラにそういう兄弟はいない。
だが、そういうことで頭を悩ましても仕方がないのだ。ポルシェは、これを作りたいから作ったのだ。この会社は1988年に、後にアストンの社長に転じるウルリッヒ・ベッツの肝煎りでタイプ989という先行試作車を作った。V8をフロントに積む大型の4ドアセダンで、これが4座ハッチバックだった。その989はデザインだけを993系に利用されて廃案となって消える。それが21世紀にパナメーラとして蘇った。フロントにV6もしくはV8を積むカイエンが成功した追い風もあったのだろう。思えばポルシェは昔から何度も4ドア車を目論んでいた。911や928をベースに試作は何度も行われていた。宿願がついに果たされたという話なのだ。
全長5mで2tになんなんとする車体をスポーツカー並みに走らせるとは無茶だという清教徒的な見解もある。だがポルシェは元々そういうものとは無縁だった。リヤエンジンという無茶なレイアウトの911を凡百のスポーツカーなんぞ蹴散らすレベルの走りに仕上げ続けてきた。トラックから派生したはずのSUVに、そのへんのスポーツセダン真っ青の機動性を持たせてカイエンを作った。バビロンの民がバベルの塔を建てたように、技術の粋を積み上げ物理の神様に挑戦し続けるのがポルシェであり、クルマという機械が提供する単なる現世利益のみならず、その挑戦の偏執性と達成の驚異をも含めて愉しんでしまうのが筋金入りのポルシェ愛好家である。