こんな酷いフェラーリ誰が買うの? 燃えたドンガラが2億7375万円に フェラーリ 500モンディアル・スパイダー・シリーズI ピニンファリーナ

公開 : 2023.08.21 12:05

0406MDのヒストリー

今回出品されたフェラーリ 500モンディアル・スパイダー(C/N:0406MD)は、1954年に2台目のモンディアルとしてマラネッロから送り出された。ミラノで最も重要なプライベーター・チームだったスクーデリア・グアスタッラを率いるフランコ・コルナッキアに、この0406MDが納車された。

同チームではスクーデリア・フェラーリのエースドライバーだったフランコ・コルテーゼにステアリングが託され、500モンディアル初の総合優勝を飾った。多くのレースでクラス優勝はもちろん、総合でも上位に食い込む活躍を遂げた。その後、0406MDは1954年にピニンファリーナ製のボディを捨て、スカリエッティによってワンオフ・デザインのスパイダーに改造されている。

クラッシュした残骸といえる状態ながら、驚きといえる約2億7375万円で落札された。
クラッシュした残骸といえる状態ながら、驚きといえる約2億7375万円で落札された。    Darin Schnabel/RMサザビーズ

その後はイタリアで何人かの所有を経て、1958年にアメリカに渡った。アメリカでの3人目のオーナーは、当時モアパワーの手段として一般的だったアメリカンV8エンジンに積み替える改造を行った。しかしながらレース中にクラッシュし、火災に見舞われてしまった。

無残に消失した0406MDの残骸は愛好家に引き取られ、何人かを経て1978年に現所有者のウォルター・メドリンが入手した。以降、モンディアルはクラッシュした状態のまま保管され、以来フェラーリ愛好家の目から遠ざかり、今回のオークションで45年ぶりに公の場に姿を見せた。

驚きの額で落札

今回出品されたフェラーリ 500モンディアル・スパイダー0406MDの、クラッシュ・炎上して大きく変形したボディは、長年放置されていたため電蝕と酸化で朽ち果てていた。さらに付属するのは代わりの750モンツァ用の4気筒エンジン(エンジンナンバー:0440MD)と、トランスアクスルと、リアサスペンションだけで、他のパーツはほとんどが失われ、まさにドンガラといえる悲惨な状態だ。

しかし事前に主催者から発表された予想落札額は120〜160万ドル(約1億7520〜2億3360万円)と驚きの額だった。せめてもの救いは、最低落札額が設定されていないことだった。

フェラーリ 500モンディアル・スパイダー(C/N:0406MD)
フェラーリ 500モンディアル・スパイダー(C/N:0406MD)    Darin Schnabel/RMサザビーズ

フェラーリの公式レストレーション部門であるフェラーリ・クラシケにフルレストアを依頼すれば、そこそこのコンディションの車両でも邦貨で1億円から3億円ほど必要になる。クラッシュして欠品だらけの0406MDを復元させるとなると、いくら請求されるかわからない。まさに『時価』の世界といえる。ちなみに標準的なコンディションでナンバーマッチングのフェラーリ500モンディアル・スパイダーは、邦貨換算してピーク時で5億5555万円、直近では2憶8702万円で落札されている。

実際のところフェラーリの4気筒レーシング・スポーツは、12気筒モデルに比べて評価が低い。そのため取引価格も12気筒と較べると高額にならない傾向にある。これまでの500モンディアルのオークション相場と、0406MDのコンディションと欠品具合を考えると、主催者発表の予想落札額はいささか楽観的に思えた。しかし、オークションを終えてみれば驚きの結果となったのである。なんと予想落札額を超える187万5000ドル(約2億7375万円)で落札されたのである。腐っても鯛ではないが、クラシック・フェラーリの強さを改めて思い知らされた。

新オーナーは0406MDをそのまま保存するのか、あるいは往年の姿に復元して公の場に現れるのか、フェラーリ愛好家にとって今後の動向に興味は尽きない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    上野和秀

    Kazuhide Ueno

    1955年生まれ。気が付けば干支6ラップ目に突入。ネコ・パブリッシングでスクーデリア編集長を務め、のちにカー・マガジン編集委員を担当。現在はフリーランスのモーター・ジャーナリスト/エディター。1950〜60年代のクラシック・フェラーリとアバルトが得意。個人的にもアバルトを常にガレージに収め、現在はフィアット・アバルトOT1300/124で遊んでいる。

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