失敗の許されなかったフルサイズ レイランドP76 4.4L V8にミケロッティ・ボディ 前編

公開 : 2023.09.09 17:54

ホイールベースはローバーSD1と同値

ローバーのアルミ製V8エンジンは、排気量を3528ccから4416ccへ拡大。最高出力は40ps増しの194psへ引き上げられ、最大トルクも39.3kg-m/2500rpmまで向上した。

燃料を供給したのは、ツインSUキャブレターではなく、シングル・ストロンバーグ・キャブレター。メンテナンスを容易にすることが目的だった。

レイランドP76 タルガフローリオ(1973〜1974年/オーストラリア仕様)
レイランドP76 タルガフローリオ(1973〜1974年/オーストラリア仕様)

他方、エントリーユニットに据えられた直6エンジンは、オースチン2200用のEシリーズがベース。シングル・オーバーヘッド・カムで排気量は2623ccへ増やされ、122psまで増強された。

トランスミッションは、3速と4速のマニュアルのほか、オーストラリア市場には不可欠な3速オートマティックも用意。まったく不満のない選択肢が整えられた。

他方、開発当初から英国でのモデル展開とP76はシンクロしていた。ローバーの次期型主力モデル、SD1シリーズとホイールベースが同値だったという事実は、わかりやすい一例だろう。前後のトレッドもほぼ同じだった。

サスペンションは、フロントがマクファーソンストラット式で、リアがコイルスプリングとラジアスアームを採用したリジッドアクスル。見た目はオーストラリア・オリジナルといえたが、シャシーはローバーの新モデルと大きな違いはなかった。

設計がまとまった1971年、2台のプロトタイプがグレートブリテン島へ輸送。テスト走行にかけられ、その結果はオーストラリアのデイビッド率いるチームと共有された。

当初は英国での販売も想定された

テスト走行の結果は、間違いなく良好だったはず。1973年6月から、英国でもP76を販売する計画が持ち上がったのだから。

英国での価格は3600ポンド前後とされ、サルーンとステーションワゴンを揃えることになった。ローバーとトライアンフのディーラーで売られることまで想定されたものの、最終的に実現はしていない。

レイランドP76 タルガフローリオ(1973〜1974年/オーストラリア仕様)
レイランドP76 タルガフローリオ(1973〜1974年/オーストラリア仕様)

P76を半世紀後に観察すると、同年代のアメリカ車と比較すれば、保守的なスタイリングだと感じられるだろう。しかし、英国車のコンポーネントを流用したモデルの割には、かなり大きい。全長は4876mm、全幅は1910mm、全高は1394mmもある。

フロントとリアのデザインは、技術者のデイビッドが強く関わったといわれているが、残念ながら全体のフォルムとフロントグリルが調和していないように見える。フロントのオーバーハングが不自然に長い点も、そんな印象を強める。

リアのオーバーハングも長いが、斜め後方から眺めるとなかなかハンサム。当時のオーストラリアでは、充分な存在感を放ったことだろう。

レイランド・オーストラリア社も、この容姿には自信があったようだ。「長年オーストラリア市場を特徴づけてきた近似性とは異なる、個性を備えた選択肢を提供します」。と、当時のAUTOCARのインタビューで担当者は話している。

この続きは後編にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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