対向ピストン・エンジンは内燃機関を救えるか? 軽量で低コスト、高効率のマイナー技術
公開 : 2023.08.29 06:05 更新 : 2023.08.29 12:09
米国で開発が進められる2ストローク・ガソリン圧縮着火方式の「対向ピストン」エンジンとはどのようなものか。軽量かつ高効率な構造、そしてディーゼル並のトルクを発揮すると言われています。
1本のシリンダーを2つのピストンが共有
変わったエンジンのアイデアは生まれては消えていくが、アカーテス・パワー(Achates Power)社の対向ピストン・エンジン(OPEとも呼ばれる)技術は量産化に向けて動き続けている。
2020年、実に1世紀以上の歴史を持つ英国のエンジニアリング会社リカルドの米国部門であるリカルド・ノースアメリカは、アカーテス・パワー社とパートナーシップを結び、その開発プロジェクトを支援している。
プロジェクトの目的は、2017年から2025年にかけて米国で段階的に導入される小型車(LDV)向けの厳しい排出ガス規制を満たすため、軽量で燃費が良い対向ピストン・ガソリンエンジンを量産化することである。その最高出力は270psと言われる。
このエンジンは、米国のフルサイズピックアップトラックのような商用車ユースを想定しているが、乗用車にも適しているという。
最近発表された第2世代エンジンは、重量を第1世代に比べて60%も削減し、フルサイズピックアップトラックで燃費を20%改善したほか、ディーゼル並みのトルクを実現したという。
対向ピストン・エンジン自体は目新しいものではないが(例えば、ユンカース・ユモの対向ピストン・ディーゼルエンジンは、第二次世界大戦のドイツ軍機に使用されていた)、ピストンがシリンダーボアを往復する従来式のエンジンとは大きく構造が異なる。
スバルやポルシェに搭載されているようなボクサーエンジンを想像してほしい。これは水平対向エンジンと呼ばれるもので、中央のクランクシャフトから水平面上でピストンが出入りし、その外側にシリンダーヘッドがあり、そこで燃焼が行われる。
これを逆転させ、エンジンの両端にシリンダーヘッドではなく2本のクランクシャフトを配置し、各シリンダーで2つのピストンが互いに近づくように動くのが、対向ピストン・エンジンの仕組みだ。1本のシリンダーを2つのピストンが共有し、対向する形で動作するのである。
燃料と空気は、両ピストンがシリンダーの中心部で合流する(もちろん接触はしない)ときに2本の間に導入され、そこで燃焼室が形成される。混合気が点火すると、両ピストンは強制的に引き離される。吸気と排気はエンジンの中心で行われる。
アカーテス・パワー社のエンジンは2ストロークで、ピストンが合流するたびに点火する。さらに先進的なのは、ガソリン圧縮着火エンジンであることだ。つまり、ガソリンは火花ではなく、圧縮熱と高温の排気ガスの痕跡によって点火される。
シリンダーヘッドやカムシャフトがなく、シリンダーも少ないため、軽量で低コストな3気筒(6ピストン)エンジンを製造できる。
また、燃料のエネルギーを熱として失うのではなく、機械的なパワーに変換する熱効率という点においても、他のレシプロエンジン技術よりも優れている。
アカーテス・パワー社も加わるワーキンググループ「Hydrogen Opposed-Piston Engine Working Group(水素対向ピストンエンジン・ワーキンググループ)」は、NOx(窒素酸化物)をほとんど発生せずに水素をクリーンに燃焼させる直噴式火花点火エンジンの開発を検討している。特に言及されてはいないが、対向ピストン・エンジンは合成燃料も使用できる可能性が高いようである。