麗しいミケロッティ・ボディ ランチア・アレマーノ・アウレリア B53 1台限りのクーペ 後編
公開 : 2023.09.10 17:46
豪華さと快適さを求めて仕上げられた、アレマーノ・アウレリア。1台のみが作られた特別なクーペを、英国編集部がご紹介します。
ランチアらしい盾形のラジエターグリル
アレマーノ社のランチア・アウレリア B53にシルエットが似た、クーペのB52をベルトーネ社が1952年に発表している。その頃のカロッツェリアでは、相互に影響を及ぼし合うことが一般的だった。別のスタジオへ下請けに出されることも、珍しくなかった。
例えば、アウレリア・クーペ B20をデザインしたのは、デザイナーのフェリーチェ・マリオ・ボアーノ氏。ヴィオッティ社が当初はボディを成型したが、注文が増えすぎ、対応を引き受けたピニンファリーナ社のデザインだと認知されるようになっている。
そのボアーノも、ピニンファリーナ社によるシチタリアから、B20のインスピレーションを受けていなかった、というのは嘘になるだろう。良くいえば、お互いに高め合うことで、一目置かれるようなイタリアン・スタイリングは生み出されていた。
アレマーノのアウレリア B53へ話を戻すと、前後のバンパーはとてもシンプル。フロントノーズには、盾の形をしたランチアらしいラジエターグリルが与えられているが、縦格子ではなく、十字格子なことが珍しい。
優しく膨らんだドアに、流線型のドアハンドルが配される。ホイールキャップは、通常のアウレリアより重厚感がある。フロントフェンダーには、クーペ・アウレリアと上品に綴られている。リアには、トランクリッドのハンドルとテールライトが静かに並ぶ。
細部まで抜かりないポップなインテリア
リアヒンジの長いボンネットを開けば、シングルキャブレターを載せたコンパクトなV6エンジンが姿を表す。シリンダーが左右で入れ違うように並び、パラパラとタペット音を鳴らすヘッドカバーと、ディストリビューター・キャップが特徴的だ。
バルクヘッド側には、スライディングピラー構造のフロント・サスペンションを滑らかに保つ、潤滑油のタンクがある。ラジエーターには、サーモスタット制御のシャッターが備わる。ヒューズも、しっかりケースへ収められている。
トランクリッドを開くと、見事な車載ツールキットが収まっている。ガソリンの給油口も、荷室の内側。ダッシュボードにも燃料計は備わるが、念のため、ガソリンタンクにもメジャースティックが用意されている。
長いドアを開きアレマーノ・アウレリア B53の車内へ。インテリアは、1950年代のジェラート屋さんのようにポップ。前後のシートはベンチタイプで、ボタンの付いたレザー張り。ゆったりしているから、体型次第では6名まで乗れるだろう。
ベークライト製のサイドウインドウ・ワインダーやドアハンドル、ステアリングホイール・リム、細かなスイッチ類などがキャラメル色に染められ、統一感を生んでいる。レブカウンターとスピードメーターは大きく、クロームリングが輝く。
ラジオデッキには、主要な都市のイニシャルが振られ、チューニングしやすい気配りが。ドアポケットは大きく、ドアパネルにはアレマーノ社のロゴがあしらわれる。細部まで抜かりない。