同じボディに3種のエンジン ロールス・ロイス・シルバーセラフ ベントレー・アルナージ 名門のねじれ 前編

公開 : 2023.09.16 17:45

ロールス・ロイスとベントレーの買収劇で生まれた、3種のエンジンを積むサルーン。英国編集部が、その魅力を再確認します。

まったく異なるエンジンを収める同一ボディ

未来を導くカギが、過去に存在していたという場合がある。ただし、自動車のパワートレインで当てはまる場合は殆どない。以前より強力で上質でありながら、優れたエネルギー効率を実現する必要があるためだ。

珍しい例外の1つが、1998年に発売されたベントレーアルナージ。確かに素晴らしい内容へ仕上がっていたが、予想以上の販売へ結びつけた功労者は、約30年前に開発されたV型12気筒エンジンだった。過去の技術が、当時のベントレーを救ったといえる。

手前からパープル・シルバーのベントレー・アルナージ Tと、ダーク・ブルーのロールス・ロイス・シルバーセラフ
手前からパープル・シルバーのベントレー・アルナージ Tと、ダーク・ブルーのロールス・ロイス・シルバーセラフ

英国の名門ブランドが遂げた再興を振り返るため、今回は3台の大型サルーンを揃えてみた。ベントレーとともに歴史を歩んだ、同時期のロールス・ロイスとともに。

実際のところ、この3台のボディはほぼ同じ。しかし、まったく異なるエンジンが長いボンネット内に収まっている。

ダーク・ブルーのロールス・ロイス・シルバーセラフに載るのは、5.4Lの自然吸気V型12気筒。ダーク・グリーンのベントレー・アルナージ、後のグリーンレーベルには、4.4LのツインターボV型8気筒が載っている。

そして、パープル・シルバーのベントレー・アルナージ Tを動かすのは、6.75LのツインターボV型8気筒。プラットフォームを共有し、並行的に販売されていたにも関わらず、それぞれ異なる多気筒エンジンが載っていた。

BMWエンジンが前提の新プラットフォーム

3種類のエンジンが採用されるに至った理由は、1990年代にロールス・ロイスとベントレーを襲ったブランドの買収劇。ご存知の通り、現在の前者はBMW傘下にあり、後者はフォルクスワーゲン・グループの一員になっている。

これら3台の先代に当たるモデルは、ロールス・ロイス・シルバースピリットとベントレー・ミュルザンヌ。その起源は、1965年のシルバーシャドウとTシリーズまで遡った。新しいサルーンが待望されていた時期と重なった。

手前からパープル・シルバーのベントレー・アルナージ Tと、ダーク・ブルーのロールス・ロイス・シルバーセラフ、ダーク・グリーンのベントレー・アルナージ
手前からパープル・シルバーのベントレー・アルナージ Tと、ダーク・ブルーのロールス・ロイス・シルバーセラフ、ダーク・グリーンのベントレー・アルナージ

1990年代、生産拠点のチェシャー州クルーの工場とともに、ロールス・ロイスとベントレーを所有していたのは、英国の機械製造大手だったヴィッカーズ社。ところが同社は、コストを理由に新モデルの開発へブレーキをかけていた。

それでも、長年登用されてきた6.75Lの自然吸気V型8気筒エンジンは、厳しさを増す排出ガス規制に対応しきれなくなっていた。そこで、パワートレインを外部から調達することを前提に、新しいプラットフォームの設計が遅れながらも始まった。

長い歴史を持つブランドにとってはリスキーな戦略だったが、様々なエンジンが検討され、最終的に選ばれたのはBMW。ロールス・ロイスとベントレーで差別化を図るため、まったく異なるユニットが手配された。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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