同じボディに3種のエンジン ロールス・ロイス・シルバーセラフ ベントレー・アルナージ 名門のねじれ 後編
公開 : 2023.09.16 17:46
ロールス・ロイスとベントレーの買収劇で生まれた、3種のエンジンを積むサルーン。英国編集部が、その魅力を再確認します。
もくじ
ープッシュロッドの6.75L V8エンジンを大改良
ーレッドレーベルとグリーンレーベル
ー控えめに速さを主張するアルナージ
ードライビング体験で鮮明な印象を残す「T」
ー不完全さが生む無二の訴求力
ーシルバーセラフとアルナージ 3台のスペック
プッシュロッドの6.75L V8エンジンを大改良
事前の情報通り、1998年にヴィッカーズ社はロールス・ロイスとベントレーを売却。BMWが購入の意志を示したが、フォルクスワーゲン・グループは4億5600万ポンドという巨額での買収を提示。好条件な後者と取り引きが結ばれた。
ところがロールス・ロイスの商標権は、独立した自動車部門ではなく、ロールス・ロイス・ホールディングス(PLC)が保有するという事実が判明。ホールディングス側は、BMWへの売却を強く望んでいたという。
最終的に、フォルクスワーゲン・グループがベントレー・ブランドとチェシャー州クルーに位置する工場を入手。BMWは、その買収額の10%の金額で、ロールス・ロイス・ブランドを手中へ収めることになった。
その後に2社で協議が開かれ、2002年まではクルーの工場でロールス・ロイス・シルバーセラフを生産することが決定。2003年からは、グッドウッドに用意される新工場で、新しいモデルを提供する予定が組まれた。
この駆け引きで、最もダメージを被ったのはベントレー・アルナージだろう。BMWのV8ツインターボが充分なトルクを発揮しなかっただけでなく、フォルクスワーゲン・グループ傘下にありながら、異なるメーカーのエンジンを積むことになったのだから。
このねじれに光を差したのが、フォルクスワーゲンのフェルディナント・ピエヒ氏。ベントレーが古くから使ってきた、プッシュロッドの6.75L V8エンジンへ白羽の矢が立てられた。排出ガス規制へ対応させるため、包括的な再設計が必要となったが。
レッドレーベルとグリーンレーベル
プラットフォームにも大幅な改良が求められたものの、2年足らずで目的を達成。プッシュロッドを更新し、ギャレット社のターボを1基追加し、1気筒当たり2バルブながら405psを引き出した。最大トルクも、85.4kg-m/2150rpmと驚異的な数字だった。
ベントレーは、古くて新しいV8エンジンのアルナージへレッドレーベルと名付け、1999年に発売。最大トルク57.0kg-m/2500rpmの、BMWエンジンを積んだ既存のアルナージにはグリーンレーベルと命名し、2001年まで併売した。
最終的な生産数は、レッドレーベルが1570台で、グリーンレーベルは1173台。以降、改良を受けながら2009年までアルナージは製造が続いた。ロールス・ロイスのシルバーセラフは、2002年に生産を終了している。
今回の3台で存在感が強いのは、クルーから追い出される格好になったロールス・ロイス。クロームメッキがボディを飾り、フロントグリルの主張が強く、まず目線が向かってしまう。高級感も高く、試乗中は通行人に見つめられることが多かった。
走行距離は10万kmを超えているが、このシルバーセラフは新車時のような状態を保っている。重厚なドアを開き運転席へ座ると、女神、スピリット・オブ・エクスタシーがボンネット上で進む先を示している。
大きなメーターが2枚、美しい木目のダッシュボードに並ぶ。1枚は速度計。もう一方は、燃料計や水温計などが一体になっている。エアコンの送風口がクロームメッキで輝く。センターコンソールに並ぶBMW由来のボタン類が、少し調和していない。