同じボディに3種のエンジン ロールス・ロイス・シルバーセラフ ベントレー・アルナージ 名門のねじれ 後編

公開 : 2023.09.16 17:46

控えめに速さを主張するアルナージ

コラムシフトをドライブまで下げ、アクセルペダルを軽く傾ける。自然吸気のV型12気筒エンジンは、ほぼ無音で反応。殆ど知覚できないシームレスさで5速ATは次のギアを選び、速度感覚を掴みにくい。

右足へ力を込めると、ロールス・ロイスとしては軽快に回転数が高まる。先代に当たるシルバースピリットのように、トルクたっぷりの唸りは放たない。

ロールス・ロイス・シルバーセラフ(1998〜2002年/英国仕様)
ロールス・ロイス・シルバーセラフ(1998〜2002年/英国仕様)

乗り心地は不自然に硬いようだが、車両の維持を任されているナイジェル・サンデル氏は、まだ整備が完璧ではないと釈明する。そのかわり姿勢制御は引き締まっており、ステアリングホイールの感触も、2台のベントレーより好ましいようだ。

3台の見た目で、最も好印象なのはダークグリーンのベントレー・アルナージだろう。メッシュのフロントグリルを備え、17インチのアルミホイールを履き、控えめに速さを主張する。

0-97km/h加速は6.3秒と鋭く、最高速度は241km/hに届く。BMW由来の4.4L V8ツインターボ・エンジンを積み、見かけ以上に速い。

ダッシュボードを眺めると、5枚のメーターが中央側に整列している。4スポークのステアリングホイールは、スポーティな扱いに備えてリムが太い。5速ATのシフトレバーがセンターコンソールから伸び、シルバーセラフより扱いやすい。

エンジンを始動させると、コスワースがチューニングした事実を想起させない。V12エンジンより僅かにサウンドが大きく、中回転域でのパワーも太いものの、至って主張は控えめだ。

ドライビング体験で鮮明な印象を残す「T」

動的なまとまりでは、落ち着いたシルバーセラフへアルナージは並ぶ。乗り心地の滑らかさでは勝る。こんなベントレーの中古車が、英国ではホットハッチと同程度の価格で購入できるとは信じがたい。

それでも、ドライビング体験で鮮明な印象を残すのは、パープル・シルバーのベントレー・アルナージ T。新車当時、BMWのエンジンをあえて選ばなかった、初代オーナーの確かな意志が表れているようだ。

ベントレー・アルナージ T(2002〜2009年/英国仕様)
ベントレー・アルナージ T(2002〜2009年/英国仕様)

このアルナージ Tは、2002年に登場。シングルターボはツインターボへ置換され、6750ccから450psと89.1kg-mを発揮した。レッドレーベルのV8エンジンをベースに、部品の80%へ改良を施し、その50%は新設計だと主張されていた。

ボディシェルは強化され、270km/hに達した最高速度へ対応するため、エアロダイナミクスも見直されている。2520kgの車重をタイトに制御するオプションのハンドリングパッケージも、制御系へアップデートが施されている。

視覚的には、左右に2本づつ並んだマフラーカッターと、19インチのアルミホイールが、通常のアルナージとは別物であることを静かに物語る。タイヤは扁平率が45で、高性能モデル御用達のピレリPゼロを履く。

プッシュロッドのV8エンジンを目覚めさせると、アイドリング時から低音が響く。クルーの技術者を悩ませたであろう、細かな振動も伝わってくる。
重めのアクセルペダルをゆっくり倒すと、計り知れないパワーを秘めていることを匂わせる。都市部の流れに沿った速度で、右足をなだめながら運転していても。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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