珍しい「仕様変更」 EVのボルボXC40、リア駆動に変わったメリットは?

公開 : 2023.08.31 18:15

同じクルマがFWDからRWDに変更。外観は実質同じまま…。そんなこと、考えられます!? ボルボ「XC40」の電気自動車にどんなことが起きたか検証します。

まさかの駆動輪変更 それがEVなら

同じクルマが外観はほぼそのままに、前輪駆動から後輪駆動に変わることは稀だ。筆者が知る限りでも、1960〜70年代にトライアンフ1300/1500がトレド/ドロマイトに移行したときぐらいである。

でもこのときは、縦置きフロントエンジンであることはそのまま、前輪駆動から後輪駆動に切り替えていて、さすがにエンジンを前から後ろに積み替えたりはしていない。

XC40リチャージ・プラス・シングルモーター(ヴェイパーグレーメタリック)。2024年モデルでは、従来のFWDからRWDに仕様変更された。
XC40リチャージ・プラス・シングルモーター(ヴェイパーグレーメタリック)。2024年モデルでは、従来のFWDからRWDに仕様変更された。    神村聖

でも電気自動車なら、似たようなことが楽にできる。エンジンよりモーターのほうが、はるかに小型軽量だからだ。ボルボC40リチャージとXC40リチャージは2024年モデルで、それを具現化した。このブランドとしては940/960以来のRWDということになる。

これまで前輪駆動だったのは、エンジン車のXC40がフロントにエンジンを横置きしていたからだろう。しかしAWDは、エンジン車がリアにプロペラシャフトを伸ばす方式だったのに対して、リチャージは多くの電気自動車同様、前後2モーターとした。つまりフロントモーターを取り去れば、簡単にRWDができる。

FWDからRWDへ スペック比較

ではなぜ後輪駆動に切り替えたのか。スペックを見比べると、いろいろなことがわかってきた。

モーターは新たに自社開発したもので、最高出力は従来の231ps/4919-11000rpmから238ps/4000-5000rpm、最大トルクは33.6kgm/0-4919rpmから42.6kgm/1000rpmになった。これまでより低回転大トルク型になったと言える。

XC40リチャージ・プラス・シングルモーター(内装色:チャコール/2024年モデル)のインテリアはレザーフリー。本革を用いず、合成素材(部分的にリサイクル素材)を使っている。
XC40リチャージ・プラス・シングルモーター(内装色:チャコール/2024年モデル)のインテリアはレザーフリー。本革を用いず、合成素材(部分的にリサイクル素材)を使っている。    神村聖

一方で駆動用リチウムイオンバッテリーの容量は69kWhから73kWhへ拡大。車両重量は2WD同士で30kg重い2030kgになった。

となると満充電での航続距離は減っていそうだが、WLTCモードでは502kmから590kmに延びていて、電力量消費率は159Wh/kmから143Wh/kmに削減している。

最終減速比を見ると、前輪駆動時代の10.510から8.770と、大幅にハイギアード化されていることにも気づいた。新開発の低回転大トルク型モーターをゆったり回すとともに、大トルクを与えてもホイールスピンなどのロスが少ない後輪駆動にすることで効率を高めたのかもしれない。

実感 「変わったのはすぐわかる」

グレードはXC40/C40ともにプラスとアルティメットで従来と同じだが、これまでAWDだった後者もRWDに統一された。前輪駆動車のAWD化は高性能車におけるトラクション能力確保という側面もあったので、今後XC40/C40リチャージにはAWDの想定はされないかもしれない。

装備は、今回乗ったXC40リチャージ・プラスではホイールのデザインが変わり、エアピュリファイヤーが標準装備化されたぐらいで、これまでとほとんど変わらない。タイヤはフロントが235/50、リアが255/45の19インチだが、調べてみたら前輪駆動時代からこのサイズだった。

XC40リチャージ・プラス・シングルモーター(ヴェイパーグレーメタリック/2024年モデル)
XC40リチャージ・プラス・シングルモーター(ヴェイパーグレーメタリック/2024年モデル)    神村聖

フロントフード内のリッド付きの収納スペースも、容量を含めて前輪駆動時代と同じ。内部に補強を入れたためだそうで、前輪の切れ角も変わらない。このあたりはEX30を含めた次世代に期待といったところだろうか。

ただし走り始めれば、駆動輪が変わったことはすぐにわかる。ステアリングがすっと軽く切れるようになり、ノーズの動きも軽快だ。

高速道路ではパワーアシストがやや渋めになって、安定感を出そうとしていることが伝わってきた。

乗り心地は以前乗ったXC40同様、ボルボらしい穏やかなテイストで、この点は以前と大きく変わらないが、路面からのショックを受けたときの感触は、前輪駆動とは少し違うものだった。

記事に関わった人々

  • 執筆 / 編集

    森口将之

    Masayuki Moriguchi

    1962年生まれ。早稲田大学卒業後、自動車雑誌編集部を経てフリーランスジャーナリストとして独立。フランス車、スモールカー、SUVなどを得意とするが、ヒストリックカーから近未来の自動運転車まで幅広い分野を手がける。自動車のみならず道路、公共交通、まちづくりも積極的に取材しMaaSにも精通。著書に「パリ流環境社会への挑戦」(鹿島出版会)「MaaSで地方が変わる」(学芸出版社)など。
  • 撮影

    神村聖

    Satoshi Kamimura

    1967年生まれ。大阪写真専門学校卒業後、都内のスタジオや個人写真事務所のアシスタントを経て、1994年に独立してフリーランスに。以後、自動車専門誌を中心に活躍中。走るのが大好きで、愛車はトヨタMR2(SW20)/スバル・レヴォーグ2.0GT。趣味はスノーボードと全国のお城を巡る旅をしている。
  • 編集

    徳永徹

    Tetsu Tokunaga

    1975年生まれ。2013年にCLASSIC & SPORTS CAR日本版創刊号の製作に関わったあと、AUTOCAR JAPAN編集部に加わる。クルマ遊びは、新車購入よりも、格安中古車を手に入れ、パテ盛り、コンパウンド磨きで仕上げるのがモットー。ただし不器用。

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