スバルBRZ tS
公開 : 2013.10.26 19:59 更新 : 2017.05.29 18:42
ペースと負荷を上げていくと、アシの動きがどこか軽薄なところも是正されていることに気づく。基準車では、アシが縮み始めて20mmほどのクリアランスで設置されたバンプストッパーに当たるまでのあいだ、ストローク感に節度が足りず、スカスカと頼りない動きを繰り返していた。それがtSでは、きちんと踏ん張りながら初期ストロークしていく感覚に変わっている。コイルのばね定数とダンパー減衰力を少し上げつつ、10mmほどローダウン(バンプストッパーに当たるまでの距離が半減して縮みストローク規制は強くなる理屈だ)しているとのことだが、盛大に硬めたわけでもないその程度の変更でこれだけの結果を出しているところに、技術陣の腕の確かさを感じる。
高負荷旋回時におけるストローク感も悪くない。BRZ/86は、前軸部のエンジンコンパートメント幅に押され、通常はストラット軸に対してオフセット配置されるコイルを同軸配置せざるを得なくなり、このせいでダンパー伸縮の円滑が阻害されているフシがある。tSはストラット下部を伸ばしてアップライト結合点を下げて上下の取り付けスパンを延長し、またダンパー外筒を厚くする改変も実施。ストラットの横剛性に効くこれらの作業のおかげなのか、フロントやリヤが流れ出すところまで攻め込んでも、アシが妙に突っ張ったり腰砕けになったりを繰り返す仕草を見せず、信頼感は増している。また、そんな状況でアクセルでリヤの出し入れを加減しようとしたとき、基準車ではグリップが出たり戻ったりするのに伴って横方向へリヤが身じろぐ微動が見取れたが、その不快な介雑も減っている。これにはリヤサス横方向アーム2本のボディ側リンクをピローボールブッシュに換えたことも寄与しているのだろう。
改変メニューにはドライブシャフトの大径化という渋い項目があったが、これは見事にトラクションの切れ味に効いている。アクセルを入れたときの蹴り足の反応のアキュレートさは、上記のような高機動時のみならず、信号発信程度の優しい加速のときでも十分に味わうことができたのだ。
と、そんな具合にシャシーが落ち着きと重厚を見せるので、元々あまり爽快ではなかったエンジンが相対的にさらに色褪せて見えたことも確かである。とりわけA/T仕様では駆動伝達に隔靴掻痒の趣が加わって、余計にその心象が濃かった。メニューには吸気音を室内に導くダクトのフィルター特性変更という項目もあり、基準車のそれよりもわざとらしくない音環境になっているのだが、これだけで解消できるものでもない。
そういうわけでSTIの仕事は流石だが、tSは基準車と別物になったわけではない。シャシー面での向上は確かなれど、BRZというクルマが持っている特徴というか、癖の部分までは塗り替えられていない。操舵と同時にフロントのアウト側がびくんと沈み、イン側から瞬間的に荷重が抜ける感じや、強めの制動時に前輪の接地感が左右で乱れてちょろつく様子、高負荷旋回時に路面不整を食らってアシが動く際にタイヤの位置決め感が微妙にブレるところなどは、症状は軽くなったけれど依然として残存している。重厚化によって好印象に転じた表層から少し深く掘り下げてクルマの動きを観察すればそれが分かる。生まれ変わったのではなく、大人になったBRZ。そういうこれは仕事である。
(文・沢村慎太郎 写真・花村英典)
スバルBRZ tS GTパッケージ
価格 | 429.45万円 |
0-100km/h | 7.6秒 |
最高速度 | 225km/h |
公称燃費(JC08) | 12.4km/ℓ |
CO₂排出量 | 187g/km |
車両重量 | 1250kg |
エンジン形式 | F4DOHC, 1998cc |
エンジン配置 | フロント縦置き |
駆動方式 | 後輪駆動 |
最高出力 | 200ps/7000rpm |
最大最大トルク | 20.9kg-m/6400-6600rpm |
馬力荷重比 | 160ps/t |
比出力 | 100ps/ℓ |
圧縮比 | 12.5:1 |
変速機 | 6段M/T |
全長 | 4260mm |
全幅 | 1775mm |
全高 | 1290mm |
ホイールベース | 2570mm |
燃料タンク容量 | 50ℓ |
荷室容量 | 243ℓ |
サスペンション | (前)マクファーソン・ストラット |
(後)ダブルウィッシュボーン | |
ブレーキ | (前)φ326mmVディスク |
(後)φ316mmVディスク |