1922年の1.5Lクラスで圧倒的な競争力 アルヴィス10/30 隠れたワークス・マシン(1)

公開 : 2023.09.17 17:45  更新 : 2023.09.19 10:55

英国に存在した自動車メーカー、アルヴィス 歴史に刻まれる成果を残した祖先といえる初の量産車 隠れたワークス・マシンを英編集部が紹介

ミドルレンジ市場へ参入したアルヴィス

実は、日本にも少なくないアルヴィス・ファンが存在する。半世紀以上前に廃業した自動車メーカーの貴重な例を後世に継ぐうえで、喜ばしい事実といえる。ただし、アジア大陸を挟む遠い位置関係にあり、お互いに不便なことも起き得る。

今回のアルヴィス10/30のエンジン始動に必要な木製ブロックは、まだ東京に保管されているらしい。それがないと、冷間時には大人2人の手が必要になる。

アルヴィス10/30(1920〜1923年/英国仕様)
アルヴィス10/30(1920〜1923年/英国仕様)

スターターモーターへの通電と同時に、キャブレターの吸気用トランペットを手で塞ぐ。筆者も手伝いながら、1.5L 4気筒エンジンが目覚めた。

ブルブルと震え、カラカラと音を放つ。1920年代のクルマでありながら、電動スターターを備えるという事実が、高級車であることを物語る。

キャブレターで後に名を馳せる、ホーリー兄弟が所有するコベントリーの敷地を、トーマス・ジョージ・ジョン氏が購入したのは1919年。小型車へ迫るランニングコストを叶え、大型車に準じた品質を備える、新モデルの開発へ着手した。

その頃、フォードは大衆車の先駆者といえるモデルTを英国へ導入。ロールス・ロイスは、高級車を提供していた。その間に位置するミドルレンジ市場への参入を、トーマスは目指した。

外部への技術開発で事業を拡大させつつ、早くも1920年には初の量産モデルの準備が整えられた。そのエンジンには、アルミ製のピストンが組まれていた。ラテン語で、ビスは強さを意味した。この2つを組み合わせ、アルヴィスというブランド名が与えられた。

3500rpmで盛大に振動し始めるエンジン

この象徴的なエンジンは、ベントレーのショールーム・マネージャーを務め、軽量なピストンの有効性を唱えた、ジェフリー・ド・フレヴィル氏に影響を受けたもの。黎明期にあり、サイドバルブ構造の単純な4気筒ユニットではあったが。

高品質な部品を積極的に採用し、一定の実績があった技術を可能な限りブラッシュアップ。当時の1.5Lエンジンとしては不満のないパワーを発揮し、高回転域まで滑らかに上昇した。

アルヴィス10/30(1920〜1923年/英国仕様)
アルヴィス10/30(1920〜1923年/英国仕様)

エンジンブロックには、冷却用の経路をシリンダー周辺だけでなく、バルブシート側にも均等にレイアウト。クランクシャフトにはニッケル鋼を、ベアリングにはリン青銅を用いるなど、新しい素材も採用されていた。

もちろん100年前としては、という注釈が付く。最高出力が発揮されるのは3500rpmで、ここまで引っ張るとエンジンは盛大に振動し始める。フロントガラスを囲むクロームメッキの部品も、激しく震えて形がわからなくなるほど。

それでも、その頃としては驚くべき、4速もあるマニュアル・トランスミッションが載っている。60km/hから70km/h前後の速度なら、落ち着いた回転域を保って運転できる。最高速度は、時速60マイル(約96km/h)が主張されていた。

今回の1922年式10/30は、非公式ながらアルヴィスのワークスチーム・レーシングカーといっても良かった。コーチビルダーのクロス&エリス社が手掛けた2シーター・ボディで、それ以上のスピードが狙われていた可能性はある。

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・カルダーウッド

    Charlie Calderwood

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

アルヴィス10/30 隠れたワークス・マシンの前後関係

前後関係をもっとみる

関連テーマ

おすすめ記事

 

人気記事