1922年の1.5Lクラスで圧倒的な競争力 アルヴィス10/30 隠れたワークス・マシン(1)
公開 : 2023.09.17 17:45 更新 : 2023.09.19 10:55
1.5Lクラスで圧倒的な競争力を披露
最初のオーナーは、アルヴィスの開発ドライバーだったジョー・ブラウン氏。ワークスチームが既にしのぎを削っていた時代に、プライベート・レーサーとして参戦する機会を意図的に与えたようだ。
プライベート・ドライバーの駆るマシンは、量産モデルの品質を明確に反映すると考えられていた。メーカーが表に出ないことが、マーケティング的には有利に働いた。
10/30のステアリングホイールを握ったブラウンは、ダートコースを走るトライアル・レースへ出場。ロンドン=ホーリーヘッドやロンドン=エディンバラ、ロンドン=ランズエンドといったイベントで優勝を飾った。
ケント・オートモービル・クラブが開催したヒルクライム・レースでは、ファステストタイムを記録。1460cc 4気筒エンジンの信頼性は確かに高く、1.5Lクラスで圧倒的な競争力を見せつけた。
ところが後年、アルヴィスのブランドを継いだレッド・トライアングル社の技術者がエンジンをバラすと、排気量が100ccほど拡大されていたことを発見している。モータースポーツでの不正疑惑は、決して新しい問題ではなかったようだ。
慣れが必要なトランスミッション
実際に10/30を運転してみると、このマシンでロンドンからグレートブリテン島北部のエディンバラまで走破したという事実に、驚嘆させられる。現代的なモデルに甘えてきた、筆者の場合は特に。
トランスミッションの取り扱には、慣れが必要。1速へ入れる時は、かなりの力でレバーを押し込む必要がある。走り始めてからも、アクセルペダルの角度を加減しながら、次のスロットへ倒す作業が求められる。
クラッチを2度踏みつつ、適切な回転数までエンジンをなだめる。コツを掴めば、それほど難しくはない。シフトダウンは、ギアの回転を予想しながらアクセルペダルを軽く踏めば問題ない。
シフトレバーはドライバーの右側。ボディへ接する位置から伸びており、細いレバーの動きを、目で毎回確かめる必要がある。
ありがたいことに、コーンタイプのクラッチの繋がりは理解しやすい。ペダルは相当重いが、戦後の高性能モデルに必要な筋力と比べれば、遥かに優しい。
3速までは基本的に加速用。4速と大きく離れたギア比が、弱点のようだ。
一般的にクラシックカーでは、登り坂で徐々に減速し始めたら、ステアリングホイール上のレバーで点火タイミングを進めると、粘り強く登ることになっている。だが、排気量の小さい10/30では目立った効果は得られない。アクセルペダルを蹴飛ばすしかない。
この続きは隠れたワークス・マシン(2)にて。