ベントレー・コンティネンタルGT3-R
公開 : 2014.10.22 23:50 更新 : 2017.05.29 19:03
■どんなクルマ?
’輝かしき矛盾’ とは、まさにこのクルマのことを言うのかもしれない、とコンチネンタルGT3-Rを目の前にして思った。離れてみれば、ナンバープレートを付けたコンペティションカーに見えなくもない。仮にそうでなかったとしても、ホモロゲーションモデルといったところだろうか。
実際のところは、コンペティションカーでもホモロゲーションモデルでもなく、また同時に、一般的なラグジュアリーGTでもない。
このコンチネンタルGT3-Rは、遡ること数十年にわたり遠ざかっていたモータースポーツへの復活の象徴として、ベントレー未踏の領域へとチャレンジしたクルマなのだ。
だからと言って高級感はまったくスポイルされておらず、コンチネンタルの伝統どおりロングツアラーであることには変わりない。言いかえれば、リアシートこそ廃されているものの、ヘビーウェイトであることも他のコンチネンタルと同じだ。
もしかすると2012年にコンチネンタルGT3がパリ・モーターショーにて姿を現したときの方が、今回のテスト車両よりも本格的なレーシングカーに近いものだったことを覚えている読者もいらっしゃるかもしれない。
この時の車両は、あくまでモータースポーツ界への復帰をアピールするために作られたものである。さすがに大型のリップ・スポイラーやリア・ウイングなどを装着した、鉄板剥き出しのコックピットのコンチネンタルを売り出しても顧客を振り向かせることは難しいと考えたのだろう。
したがってこちらのGT3-Rには、居住性はきちんと確保されている。
■どんな感じ?
それでは早速外観から見ていくことにしよう。真っ先に目につくのはスポイラーである。ちゃんと考えた上で装着したのか、あるいは2年前のコンセプト・レーシングカーから外し忘れただけなのか、頭を抱えてしまうのは筆者だけではなさそうだ。まるでスキーの板が ’なにかの拍子に’ くっついてしまったようにもみえる。
しかしこのスポイラー、きちんと能力を発揮するために装着されている。単なる板とは違い、よく見れば立体構造になっているし、カーボンファイバー部にはクリア塗装も施されている。これ見よがしなステッカーを含め、ラグジュアリーGTにとって似合うか似合わないかは置いておいて、少なくとも美しいということは間違いない。
これほどスポーティネスを押し出すのならどうしてW12エンジンを使わなかったの?とお思いの読者もいらっしゃるかもしれない。しかしこれに関しては、ぐっとこらえてもう少し読み進めていただけないだろうか。
と言うのも、4.0ℓ V8の方がレスポンスが良く、レーシーな雰囲気を持っているのである。ならばGT3-Rにも、こちらのエンジンの方がいいじゃないか、というわけだ。
このモデル専用に、新設計のターボとチタン製エグゾーストが組み合わされ、ECUも書き換えられている。したがって最高出力は580ps、最大トルクは71.3kg-mへと大きくなり、W12のコンチネンタルGTには及ばないが、V8 Sを遥かに上回る結果となった。
車重はV8 Sよりも100kg軽く、ソフトウェアをコントロールすることでシフト・チェンジに要する時間も削減された。また最終減速比はよりショートになり、最高速度は呆れんばかりの274km/hに到達。0-100km/hタイムはコンチネンタル・シリーズ唯一の4秒アンダーを実現している。
2.2トンもの車重をもつことを考えれば、驚きというよりもむしろ、尊敬の念を抱くレベルである。ただしM-スポーツと共同開発したレースカーの方は1300kg程度までダイエットをしているのに対して、どうしてこれほどまで車重が膨れ上がっているのかを不信に思う読者の気持ちも分からないこともない。しかし車重分の高級感はきちんと確保されているので安心していただきたい。ラグジュアリーゆえと考えても十分なほど、キャビンには高級感が漂っている。