IAAモビリティ2023 注目発表「イッキ見」 野心隠さぬ中国ブランド、伝統掲げる欧州老舗ブランドが相まみえる

公開 : 2023.09.10 18:05

・アウディ、BMWからテスラ、BYDまで注目の大型発表を一挙に紹介。
・ますます勢いづく中国ブランド、対する欧州ブランドは「伝統」を武器に。
・欧州最大級の国際モーターショーで見えてきた自動車の「未来」とは。

欧州最大級の国際モーターショー 見えてきた未来像

9月2日から10日にかけて、ドイツ・ミュンヘンで欧州最大級の国際モーターショー「IAAモビリティ2023」が開催された。

今は自動車産業の変化の時期であり、電動化の急速な進展や、ソフトウェア、コネクティビティ、データの重要性の高まりによって、わたし達とクルマとの関わり方、使い方が根本的に変わりつつある。

考えさせられる点はあるものの、欧州市場の「未来像」が垣間見える有意義なショーであった。
考えさせられる点はあるものの、欧州市場の「未来像」が垣間見える有意義なショーであった。    AUTOCAR

しかし、IAAモビリティ2023から得られた最大の収穫は、そうした未来がいかに馴染みあるものに見えるかということだ。自動車メーカーの出展内容のほとんどは最先端技術を押し進める最先端マシンであったが、それらはまた、親しみのあるスタイリングとバッジに包まれていた。

その最たる例がBMWの「ビジョン・ノイエ・クラッセ」で、同社の次世代EVを予告するコンセプトモデルであるが、1960年代の革新的なモデル群に付けられた名称を使用し、栄光のE30型3シリーズを彷彿とさせるシャープでクリーンなスタイリングを特徴としている。

そうしたノスタルジーはミニのDNAにも刻み込まれていると思うのだが、「クーパー」という名が付けられた最新世代の3ドア・ハッチは、クラシックな要素に磨きをかけたシンプルなデザインが特徴だった。

フォルクスワーゲンは、EVラインナップであるIDシリーズで伝統や歴史から遠ざかり、代わりに新しいスタイリングを取り入れてきた。しかし、新たにCEOに就任したトーマス・シェーファー氏の下で方針が変わったらしい。フォルクスワーゲンの大きな発表は「ID.GTI」で、これはもうGTIのベストヒットアルバムのようなデザインだった。過去の名作をパッケージしたようなもので、「心配しないで、GTIモデルを見捨てるような愚かなことはしませんから」と宣言しているようにも感じられた。

過去にフィアット500を復活させたルノーのCEO、ルカ・デ・メオ氏は、ノスタルジックなネーミングの価値を熟知している。最近復活した車名は「セニック」で、以前はモノボックスのミニバン(MPV)だったが、現在はもう少しSUVに近いものとなっている。

メルセデス・ベンツがIAAモビリティ2023で公開したのは「コンセプトCLAクラス」で、EV優先の新プラットフォームを使用するコンパクトカー全4車種のうちの最初の1台となる。コンセプトCLAクラスは、長大な航続距離を叩き出したビジョンEQXXコンセプトから学んだことをふんだんに盛り込み、750km以上を実現するという高い効率性を謳うなど、テクノロジーに重きを置いている。

他の発表ほどノスタルジックなものではなかったかもしれないが、クラシックなグリル(ライトアップされたパネルとして生まれ変わった)とスリーポインテッドスターの使用は増やしたのは確かだ。フロントとリアのデイタイム・ランニングライトも量産車に採り入れられる見込みで、メルセデスのデザインチーフであるゴーデン・ワグネル氏は、このライトはエグゾーストパイプに相当するものと捉えているという。

開催地ミュンヘンのコンベンションセンターで行われた “サミット” イベントに参加した人も、会場の中央に設けられた “オープンスペース” に足を運んだ人も、このように伝統とブランド力を強調する展示を見られたはずだ。

欧州市場への進出を加速させている野心的な中国EVブランドの存在感は大きかった。BYDニオ(Nio)、セレス、シャオペン(Xpeng)、アバター(Avatr)など多くのブランドがブースを構え、ひときわ異彩を放っていた。彼らが現在生産している製品の品質は印象的で、ますますトップ企業と肩を並べるようになっており、技術面でも比肩するか、一部ではリードしている。もちろん、彼らが太刀打ちできないのは欧州の老舗ブランドが持つ豊かな歴史である。そして、そのような老舗ブランドもまた、自身の強みとして歴史と伝統を活用すべきだとますます考えるようになった。

もちろん、変わりつつあるのは自動車や自動車会社だけではない。最近決まり文句のように「モーターショーはもう古い、もう終わった」という声が聞こえてくるが、確かにIAAモビリティ2023は、モーターショーが直面する課題のいくつかを浮き彫りにした。

実際、主要なモデルはほぼすべてショーに先駆けて公開された。ミニとBMWは9月1日にミュンヘンで独自のイベントを開催し、メルセデス・ベンツとフォルクスワーゲンは3日夜のプレショーでお披露目された。ショーの自社ブースでセニックを発表したルノーを褒めたいくらいだ。

2021年の初回と同様、ショーはミュンヘンのコンベンションセンターと同市中心部のオープンスペースに分かれて開催された。コンベンションセンターでは「IAAサミット」が開催され、オープンスペースは一般向けのものだった。BMWのブースでさえ比較的小さく、クプラポールスターをはじめとする多くのブランドはブースを構えず、パブリックスペースで展示することを選んだ。

LGやボッシュのような業界大手から、クアルコムのようなIT企業、LiDar、レーダー、バッテリー技術、EV充電器のメーカーなど、多くの関連企業も出展していた。しかし、電動バイクや電動モビリティを手掛ける企業が世の中に数多く存在するにもかかわらず、その出展がまばらであったことを無視することはできない。

そのため、やや平板なイベントとなったが、多くの点でうまくいった。業界の大物が多数参加し、自動車メディアの誌面を埋めるようなトピックをたくさん提供してくれた。

一方、ミュンヘン市街地では歴史的なレジデンツの中庭に建てられたメルセデス・ベンツの巨大ブースや、新型車に試乗できるテストコースなど、華やかな消費者向けのイベントも際立っていた。すべてが魅力的で開かれたものであり、モータースポーツを人々に伝える素晴らしい方法だと感じた。

わたし達が知っているようなモーターショーではなく、改善の余地があることも明らかである。展示されているEVと同じように、国際モーターショーの主催者たちも新しいことに挑戦していくだろう。そして、昔ながらの長所と新しいアプローチを融合させた新しい方程式にたどり着くはずだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェームス・アトウッド

    James Attwood

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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