トヨタ ハイラックスFCEV実現までの道のり 遠隔地向けのゼロ・エミッション車が具体化

公開 : 2023.09.22 18:25

・ハイラックスをベースとする燃料電池車(FCEV)プロトタイプはどのように作られたのか。
・ラダーフレームシャシーに水素パワートレインを載せる「苦労」とは。
・なかなか導入が進まない水素。トヨタは勝者になれるか。

ゼロ・エミッションの商用車

トヨタは、ハイラックスをベースとする燃料電池自動車(FCEV)のプロトタイプを公開し、水素技術の開発で大きな一歩を踏み出した。

同社初のFCEVは乗用車(2014年に発売され、現在は第2世代に移行しているミライ)であったが、商用車はより迅速な燃料補給とバッテリーよりも長い航続距離を必要とするため、水素に適していると言われる。

トヨタ・ハイラックスFCEVプロトタイプ
トヨタ・ハイラックスFCEVプロトタイプ    トヨタ

トヨタのハイラックスFCEVプロトタイプの推定航続距離は600kmとされ、水素の補給時間は従来のディーゼル車に近い。このプロジェクトは2022年初頭に英国で開始され、英国政府による支援やパートナー企業との協力により、わずか1年で具体化させた。

トヨタは車両重量や最大積載量を公表していないが、10台のプロトタイプを製作し、テストを完了してから量産に入るかどうかを明らかにする予定だ。

開発

トヨタのエンジニアはリカルド、ETL、D2H、サッチャムリサーチといった英国企業とチームを組み、ハイラックスの車体にミライの水素燃料電池パワートレインを載せた。

10台のうちの1台は衝突テストを終えており、他の車両はオンロードでのテストが続けられている。

トヨタ・ハイラックスFCEVプロトタイプ
トヨタ・ハイラックスFCEVプロトタイプ    トヨタ

英国ではテッバ(Tevva)やHVSといった水素トラックの新興メーカーが複数登場し、トヨタ・ミライヒョンデネッソなどの乗用車も入手可能であるにもかかわらず、国内の水素導入は比較的遅れている。

ハイラックスFCEVは主に、バッテリーEVの導入が難しい遠隔地での商用利用に向けたゼロ・エミッション車として位置づけられる。

ハイラックスの水素自動車化

外観的には、従来の2.4Lディーゼルを搭載するハイラックスと変わらない。しかしボンネットを開けると、ミライの燃料電池スタックが現れる。

キャブのバルクヘッドの後ろには、ハイブリッド車と同程度のサイズのバッテリーを収めた強化金属製ボックスがある。これは荷台の総面積の約20%を占めるが、トヨタによると、通常モデルでは後部座席の下に配置することも可能だという。

トヨタ・ハイラックスFCEVプロトタイプ
トヨタ・ハイラックスFCEVプロトタイプ    トヨタ

その下には3つの大きなシリンダーがあり、それぞれに2.6kgの水素(一般的なFCEVは1日1kgを使用する)が入っている。後方にはミライと同じ電気モーターが備わる。

トヨタ・モーター・ヨーロッパのパワートレイン担当責任者、ティモシー・デルデ氏は、次のように述べている。

「通常のハイラックスの最低地上高を維持しようとしました。しかし、お客様からできるだけ早く見て試してみたいとの声があったため、地上高に影響はあるものの、実績のあるミライのコンポーネントを使用しました」

「あとは、このクルマのあるべき姿を見極めなければなりません。お客様によっては、四輪駆動が必要だと言われるかもしれません。その場合、さらに最低地上高が必要になります」

燃料スタックのモジュール性がこのクルマの最も大きな特徴の1つである、とデルデ氏は言う。据え置きの発電からトヨタの物流用に改造されたVDLグループの配送トラックの動力源まで、さまざまな用途で使用されているのだ。しかし、ハイラックスへの搭載にはさまざまな課題があったという。

「ハイラックスのエンジンルームは前から後ろに向かって細くなっており、水を排出を助けるためにスタックはわずかに下向きに傾斜しています」

「このため、エアコンプレッサー、インタークーラー、エアクリーナーなどを取り付けるのは本当に大変でした。内燃エンジンでは、熱の多くが排気管を通っていきますが、燃料電池スタックが排出するのは水なので、熱を管理するために多くの熱交換器が必要になります。わたし達は、熱管理を助けるために特注のラジエーターを設計しました」

チームはまた、3つの大きな水素シリンダーを搭載できるよう、ラダーフレームのシャシーを再構成しなければならなかった。

「燃料の安全性を第一に考え、トヨタの工場を訪問し、水素タンクの製造工程も含めて研究しました。そして、フレームの設計を理解した上で、強度や安全性を損なうことなく、タンク用のスペースを確保する方法を決定しました」

「そして、(欧州向けに)ハイラックスを製造している南アフリカの工場で、そのフレームにボディを載せたのです」

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジョン・エバンス

    John Evans

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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