いいとこ突いてた メルセデス・ベンツの1400万円級BEV「EQE 350 SUV」

公開 : 2023.09.27 22:18  更新 : 2023.09.27 22:18

「センスがとてもいい」の評価

刺激や味に奔らず自然体の運転しやすさは近年のメルセデス車の特徴。

BEV系はとくにその印象が強く、EQE SUVはその点でも最新モデルである。

EQE 350 4マティックSUVローンチエディション(内装色:ネバグレー/ビスケーブルー 本革)
EQE 350 4マティックSUVローンチエディション(内装色:ネバグレー/ビスケーブルー 本革)    神村聖

全開にすればタイムラグなしでその回転の最大トルクを発生し、パワーコントロール精度も圧倒的。当然、ドライバビリティはプログラム次第だが、そのセンスがとてもいい。

加減速のドライバーの意図はペダルコントロールに表れる。単純な踏み込み量だけでなく、踏み込み速度等々も含めてクルマに伝える。

穏やかに加減速したければゆったりと。EQE SUVはペダル踏み込み量に忠実に反応する。

加速に入った時も、ペダルを緩めて巡航に移行する時も繋ぎが滑らか。神経質にペダル操作しなくてもクルマのほうで程よく均してくれる。

素早く深く踏み込めば、直後は“ちょっと誇張気味に”加速するが、すぐに踏み込み量相応に。伸びやかな加速も好印象。もちろん、神経質な操作は要求されないし狙った速度で巡航に入るのも容易。

視点を変えるなら同乗者に運転上手と思わせるようなドライバビリティ。ドライバーだけでなく、同乗者にも優しいパワートレインである。

“重さを感じさせぬ走り”とは

サスにはエアマティック、つまり電子制御エアサスを採用する。

メルセデス車の上級モデルでは珍しくはないが、前後のトルク配分を自在に制御する4WDシステムに後輪操舵機構も備えてこれもまたEQE SUVの電子制御使いの巧みさだ。

最大10度の後輪操舵を標準装備。ステアリング操作だけでなく、ブレーキやサスペンションと統合制御される。
最大10度の後輪操舵を標準装備。ステアリング操作だけでなく、ブレーキやサスペンションと統合制御される。    メルセデス・ベンツ

メルセデス車の操縦性を要約するとほぼ同じになってしまう。余計な回頭反応がなく、やや深めの舵角で乱れることなくコーナリングラインに乗る。

操舵による旋回力の変化は常に連続的。メリハリに欠くとも言えるのだが、適度な接地感と収束性が利いているのでダルとかルーズといった印象は皆無。低重心のBEVということを割り引いても2.6tの車重を感じさせない。

動き出しはスムーズで“ストローク速度およびストローク量を抑えるサス制御”はバネ定数も減衰力も電子制御化されたエアマティックの効果と理解できるが、前後駆動力配分や後輪操舵は何時何処でどのくらい介入したか体感できない。

前述したDCUもそうだが、制御の馴染ませ方が絶妙。ドライバーや同乗者は身を委ねるような安心感や素直な運転感覚などの結果だけを楽しめばいい。

172万円差 まとまりがポイント

EQE 350 4マティックSUVローンチエディションの価格は1369.7万円。

EQS 450 4マティックSUVよりも約172万円低い値付けだが、パワートレイン関連だけでなく、ナビと連動したAR HUDや助手席前面まで多うパノラミックなディスプレイのMBUXハイパースクリーンは採用されていない。メルセデス車に下克上なしというわけで価格差は装備・性能に反映されている。

EQE 350 4マティックSUVローンチエディションの後席(内装色:ネバグレー/ビスケーブルー 本革)
EQE 350 4マティックSUVローンチエディションの後席(内装色:ネバグレー/ビスケーブルー 本革)    メルセデス・ベンツ

ただ、試乗した印象では“EQS SUVのローコスト型”の印象は皆無だった。

ショーファー用途まで考慮した車体サイズは1人2人で使うには無意味に大きく、運転感覚や狭い場所での取り回し、悪路走行を考えるとEQE SUVのほうがまとまりがいい。

ちなみにMBUXハイパースクリーンは上位設定のAMG EQE 53 4マティック+SUVに標準装着されている。

気になるのは満充電航続距離だが、安心感という面では大同小異。使い勝手に影響するほどではない。内燃機車に比べれば不十分なのは、現在のBEVでは仕方ないところだ。

1400万円の予算建ては一般的とは言い難いが、最新のBEVとメルセデス車の走りの質を楽しむための「実」が揃ったモデルでもあり、価格相応の魅力を備えているのは間違いない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    川島茂夫

    Shigeo Kawashima

    1956年生まれ。子どものころから航空機を筆頭とした乗り物や機械好き。プラモデルからエンジン模型飛行機へと進み、その延長でスロットレーシングを軸にした交友関係から自動車専門誌業界へ。寄稿していた編集部の勧めもあって大学卒業と同時に自動車評論家として自立。「機械の中に刻み込まれたメッセージの解読こそ自動車評論の醍醐味だ!」と思っている。
  • 撮影

    神村聖

    Satoshi Kamimura

    1967年生まれ。大阪写真専門学校卒業後、都内のスタジオや個人写真事務所のアシスタントを経て、1994年に独立してフリーランスに。以後、自動車専門誌を中心に活躍中。走るのが大好きで、愛車はトヨタMR2(SW20)/スバル・レヴォーグ2.0GT。趣味はスノーボードと全国のお城を巡る旅をしている。
  • 編集

    徳永徹

    Tetsu Tokunaga

    1975年生まれ。2013年にCLASSIC & SPORTS CAR日本版創刊号の製作に関わったあと、AUTOCAR JAPAN編集部に加わる。クルマ遊びは、新車購入よりも、格安中古車を手に入れ、パテ盛り、コンパウンド磨きで仕上げるのがモットー。ただし不器用。

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