新世代のブレーキ機構 「ブレーキ・バイ・ワイヤ」の利点とは? クルマを変える技術
公開 : 2023.09.29 18:05
・最近よく聞かれる「ブレーキ・バイ・ワイヤ」とは何なのか。
・油圧ではなく、電気を使うことのメリットはあるのか。
・将来的にはどこへ行き着く?
ブレーキの仕組みが大きく変わる
今日のクルマは、未来的なボディの下に、ごく初期の頃からあまり変わっていない技術を搭載している。
ブレーキシステムがその一例だ。広く普及するようになったのはもう少し後のことだが、油圧式ブレーキは20世紀初頭から存在していた。しかし最近では、「ブレーキ・バイ・ワイヤ」システムを研究しているメーカーもある。
一体どのようなシステムなのだろうか。その仕組みと利点を簡潔にまとめたい。
ブレーキ・バイ・ワイヤはすでに実現している?
ブレーキ・バイ・ワイヤは、従来の油圧機構ではなく、電気を使ってクルマのブレーキを制御するシステムのこと。ドライバーとクルマの間に機械的な接続はない。
油圧を捨て、電子制御(いわゆるバイ・ワイヤ方式)に移行することでブレーキシステムをクリーンかつシンプルにすることは何年も前から議論されており、多くのプロトタイプが存在してきた。
本格的な実現に向けた第一歩は、2018年にアルファ・ロメオのジュリアとステルヴィオに搭載されたコンチネンタル製の「MKC1」だ。これは「フューチャー・ブレーキ・システム(FBS)」と呼ばれる、完全なブレーキ・バイ・ワイヤ・システムにつながる計画の始まりに過ぎない。
MKC1はいわば、完全なブレーキ・バイ・ワイヤへの道半ばの技術であり、電動ブレーキキャリパーには至っていない。タンデムマスターブレーキシリンダー(ブレーキをかけるための油圧を発生させるもの)、ブレーキブースター、ABSユニット、ESCユニットを統合し、約4kgの軽量化を実現したとされる。
近年多くの市販車に採用されている電子式パーキング・ブレーキは、ブレーキ・バイ・ワイヤを発展させたもので、従来のケーブル式システムとハンドブレーキ・レバーの必要性をなくしてしまった。
また最近の市販車には、発進時に自動的に解除されたり、坂道で一時停止時にアシストしたりする「ホールド・アシスト」と呼ばれる電子システムが搭載されるようになった。
ブレーキ・バイ・ワイヤの仕組みと利点
ブレーキ・バイ・ワイヤは、前述の通り電気を使ってブレーキを制御するシステムで、ドライバーがブレーキペダルをどれだけ強く踏み込んだかを感知するセンサーを備えている。
ペダルの踏み込みを感知すると、コントロールユニットから電動ポンプに指示が送られ、クルマを減速させたり、完全に停止させたりするために必要な圧力を発生させる。
コンチネンタルの計画には4段階のレベルがあり、「FBS 0-3」が長期的な目標とされる。同社はすでにMKC1を、「FBS 0」レベルに位置するMKC2へと発展させている。これは、ブレーキマスターシリンダー、ABS、ESCを1つのユニットに統合したものである。
従来の機械式ブレーキシステムと比較すると、ブレーキ・バイ・ワイヤにはいくつか利点がある。
パッケージングや重量はもちろんのこと、開発エンジニアがドライビング・シミュレーターを使ってペダルフィールをチューニングすることで、走行条件に応じてレスポンスを変えることができる。
もう1つの利点は、ブレーキに負荷がかかって熱くなってもペダルトラベルが変化しないことだ。ドライバーが実際に感じるのは、MKC1が再現したフィーリングであり、通常は油圧を介してフィードバックされるものだ。ブレーキがどんなにハードに効いていても、その感覚は一貫して変わらない。
完全なブレーキ・バイ・ワイヤを使えば、ブレーキフルードという引火性と腐食性のある液体を必要としない、ドライなシャシーと生産ラインを実現できる。サスペンション、ホイールハブ、ディスク、ブレーキで構成される各車輪は、あらかじめ組み立てられており、クルマにボルトオンで取り付けることができる。
また、ブレーキフルードは吸湿性がある(大気中の水分を吸収する)ため、一定期間ごとに交換しなければならず、このサイクルから外れることも完全バイ・ワイヤ方式の利点である。