ゴールは究極のドライバーズカー ポルシェ911 S/Tへ試乗 992型で最軽量の1380kg

公開 : 2023.09.30 19:05

印象的なほどしなやかな乗り心地

乗り心地にも唸らされる。タイヤはフロントが20インチ、リアが21インチの扁平率30と肉薄なのにも関わらず、印象的なほどしなやか。GT3 ツーリングでは路面が乱れると足腰の硬さを実感するが、滑らかに処理してみせる。

ボディの制御も緻密になり、落ち着きが増している。巧妙なソフトウェアが叶えているのだろう。アダプティブダンパーの硬さは2段階から選べるが、どちらも公道との相性はいい。とはいえ、ソフトなGT3になったわけではない。

ポルシェ911 S/T(欧州仕様)
ポルシェ911 S/T(欧州仕様)

筆者は、タイトな設定が好みだった。僅かにしなやかさは減じるものの、加減速時のピッチングが小さくなる。そもそも、最小限といえる動きではあるが。

マグネシウム製ホイールは、GT3用のアイテムより1本で2.65kg軽いとか。バネ下重量は大幅に減っているが、乗り心地への影響は小さいそうだ。しかし、回転慣性が小さくなることで、エンジンのレスポンスが違ってくるという。

すべてのアップデートが相乗し、フラット6は極めて鋭敏。即座に反応する。

排気音は、アイドリング時から盛大。アフターファイヤーの破裂音などは放たないが、洗練されているというより生々しい。吸気音は、ケイマンGT4 RSほど響かない。

6速MTの扱いには、思い切りと正確性が求められる。シフトダウン時は、アクセルペダルを正しく傾ける必要もある。回転を合わせるには慣れと集中力が必要ながら、ピタリと決まると充足感が高い。

エンジンの回転数は、アクセルオフで瞬く間に低下する。念のため、ポルシェはブリッピング機能も用意している。

過去最高の911だと明言できる可能性

素晴らしいステアリングとボディコントロール、魅力的なパワートレインに軽いシャシー。能力のすべてを開放できれば、とてつもない喜びが待っていそうだ。では、史上最高の911と呼べるだろうか。

筆者にとって、過去ベストの911は997型のGT3 RS 4.0だ。この911 S/Tは、それを凌駕するかもしれない。サーキット・モデルではないというが、望ましい道で本領を発揮させれば、明言できる可能性がある。

ポルシェ911 S/T(欧州仕様)
ポルシェ911 S/T(欧州仕様)

気になった点を挙げるなら、992型のボディサイズ。911 S/Tの全幅は1852mmで、GT3 RS 4.0より広くないものの、全体的に大きく感じられてしまう。恐らく、ウインドウの位置が高く、ピラーが太く、視界が制限され、内装が肉厚なためだろう。

それでも、運転する時間が長くなるほど、911 S/Tの精度と漸進さが際立ってくる。親しみやすさも増し、道路環境次第ではボディサイズも気にならなくなるだろう。

過去にないほどパワフルでシリアスになっても、現実環境へ適合し、ドライバーを存分に喜ばせてくれるという事実は、911の特筆すべき強み。他のモダンなスーパーカーとは、一線を画す特長だといえる。

夢に描くような一般道を実際に走れるなら、911 S/Tはまさに理想的なポルシェになるだろう。道幅が充分にない実際のワインディングでは、もう少しスリムなボディの方がうれしいとしても。

ポルシェ911 S/T(欧州仕様)のスペック

英国価格:23万1600ポンド(約4192万円)
全長:4573mm
全幅:1852mm
全高:1279mm
最高速度:299km/h
0-100km/h加速:3.7秒
燃費:7.3km/L
CO2排出量:313g/km
車両重量:1380kg
パワートレイン:水平対向6気筒3996cc 自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:525ps/8500rpm
最大トルク:47.3kg-m/6300rpm
ギアボックス:6速マニュアル

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・プライヤー

    Matt Prior

    英国編集部エディター・アト・ラージ
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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