無敵マシンのような信頼感 アウディeトロンGTで欧州大陸を巡る 電動グランドツアラーの可能性(1)

公開 : 2023.10.07 20:25

電動化時代のグランドツアラー、eトロンGT イタリアへの1465kmで英国編集部が実力を検証 無音で走る体験は脳裏に刻まれるのか  

欧州大陸のドライブで得られる幸福感

欧州大陸を自ら運転した経験をお持ちなら、他では得難い幸福感を味わえることをご存知かもしれない。朝の光は美しいし、闇が広がる夜も魅惑的。高速道路が延々と続き、四季折々の変化を楽しめる。

そんな体験の必須アイテムが、頼もしいクルマだ。長時間の高速走行を快適にこなせる、相棒のようなモデルが必要になる。

アウディeトロンGT フォアシュプルング・クワトロ(英国仕様)
アウディeトロンGT フォアシュプルング・クワトロ(英国仕様)

ディーゼルエンジンの、フォルクスワーゲンパサートも悪くない。だが理想をいえば、長距離ランナーのようなアスリート、能力に長けたグランドツアラーを選びたい。

英国を象徴する、アストン マーティンは望ましい。BMW M5なら、200km/h以上で延々と走っても平然としていられるだろう。フラット6の唸りを響かせるポルシェ911も、理想的な1台になる。いずれもが素晴らしい。

完成度の高いモデルに対し、カーマニアは畏敬の念を抱く時がある。秀でた能力や、見惚れてしまう容姿もそうだが、漠然とした魂のようなものに心が動かされる。

今回は、1台のバッテリーEVの真価を確認するべく、ロンドンからイタリア・ヴェローナを目指した。英仏海峡トンネルをくぐる車載列車の振動に合わせて、ボディが細かく揺れる。ホイールベースは長く、筋肉質なラインはテールへ向けて絞られている。

薄暗い列車の中で見るアウディe-トロンGTは、闇に身を潜める肉食動物のよう。欧州大陸を股にかける、グランドツアラーらしい雰囲気を漂わせる。

電動パワートレインは心を震わせるか

前後に搭載された、2基の駆動用モーターの最高出力は530ps。2004年の、アストン マーティン・ヴァンキッシュ Sへ匹敵する数字だ。あのクルマは、筆者がステアリングホイールを握った中でも、特に理想的なグランドツアラーの1台だった。

駆動用バッテリーの容量は、93.4kWhと小さくない。だが、航続距離は426kmに制限される。

アウディeトロンGT フォアシュプルング・クワトロ(英国仕様)
アウディeトロンGT フォアシュプルング・クワトロ(英国仕様)

果たして電動パワートレインは、多気筒ガソリンエンジンのように、ドライバーの心を震わせるだろうか。幸福感を損なわず、遠くを目指せるだろうか。ロンドンからヴェローナまでの片道1465kmは、過剰な要求になるだろうか。

英国価格11万2000ポンド(約2027万円)の、GTを名乗るモデルなら、許容できてしかるべき。内燃エンジンを積まないクルマが魂を持つのか、という先入観は忘れよう。主観と客観を織り交ぜながら、ロングドライブへ挑むことにした。

バッテリーEVの普及が、各市場で始まっている。ピニンファリーナ・バティスタなど、電動スーパーカーもリリースされている。フィアット500eといった魅力的なコンパクトカーや、BMW i7など高水準のリムジンも選べるようになった。

とはいえ、速さと操縦性、信頼感、航続距離などが求められるグランドツアラーは、まだ電動パワートレインと親和性が高いとはいえない。クルマとしての色気も、重要な要素になる。eトロンGTは、これらを叶えたモデルを目指しデザインされている。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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