無敵マシンのような信頼感 アウディeトロンGTで欧州大陸を巡る 電動グランドツアラーの可能性(1)

公開 : 2023.10.07 20:25

無敵のマシンに乗っているような信頼感

ほぼ無音で走る体験が、脳裏に刻まれるのか。数時間ごとに急速充電器へ立ち寄る必要性は、ストレスにならないか。そんなことを考えつつ、車載列車を降りフランス・カレーへ上陸。

スタートはスムーズだ。車高を低くし、空気抵抗を抑えるエコ・モードを選ぶ。サスペンションのストロークが短くなるため、舗装の管理状態が良くないグレートブリテン島では、賢明なモードではない。だが、フランスの平滑な高速道路には丁度良い。

アウディeトロンGT フォアシュプルング・クワトロ(英国仕様)
アウディeトロンGT フォアシュプルング・クワトロ(英国仕様)

メルセデス・ベンツSクラスのように、至って平然と進んでいく。ノイズも同等に静か。eトロンGTには、無敵のマシンに乗っているような、信頼感を抱ける。航続距離を忘れれば。ポルシェパナメーラのイメージが重なる。

洗練されたメカニズムが生む、摩擦や慣性の小ささも伝わってくる。車重は2347kgもあるが、その重厚感と空力特性、惰性走行を許すドライブトレインにより、滑走するような勢いに浸れる。

フランス東部を130kmほど走り、アイオニティ社の充電ステーションへ。さらにしばらく走り、カレーから約470km離れた別の充電ステーションにも停まる。どちらも設備は真新しい。70kWhの電気を蓄えるのに必要な時間は、25分だ。

東へ進みドイツへ入国。高速道路をクルージングするペースを保ち、70kWhの電気で走れた距離は約340km。30分弱の休憩は妥当といえ、航続距離の短さに気をもむことはなかった。

自由な移動の魅力へ影響する充電への気遣い

足かせが、なかったわけではない。アウディRS7のように、際限なく爆発的な速さを堪能できるわけではない。自由に移動できるグランドツアラーとしての魅力を、充電への気遣いが多少損なっていることは確かだといえる。

とはいえ、バッテリーEVへのシフトを否定するつもりはない。技術は進化し、恐らく状況は改善されていくだろう。2022年に、メルセデス・ベンツはEQXXというプロトタイプを発表した。空気抵抗を示すCd値が0.17と小さい、244psで4ドアのサルーンだ。

アイオニティ社の充電ステーションで充電するアウディeトロンGT
アイオニティ社の充電ステーションで充電するアウディeトロンGT

ロングテールのボディを持つEQXXは、1126km以上という航続距離を実現していた。防音材を追加し、450ps程度までパワーを増せば、航続距離は800km程度まで縮まるかもしれない。それでも、グランドツアラーとして不足ない能力といえる。

ロンドンからヴェローナまでの移動も、途中に1度の充電でこなせる計算になる。高速道路を穏やかに走ればだが、かなりの訴求力がある。

フランス東部のメッスからドイツの国境までは、3車線の高速道路で我慢した。しかし、せっかくの欧州大陸。もっとチャレンジングな道も選びたい。黒い森、シュヴァルツヴァルトに広がる一般道や、美しい市街地という誘惑には逆らえない。

これぞグランドツアラーの醍醐味。数100kmを安楽に移動し、カーブの続く雄大な道を堪能し、静かな目的地でピルスナー・ビールへ舌鼓を打つ。クルマ旅でしかできない、楽しみ方だろう。

この続きは、アウディeトロンGTで欧州大陸を巡る 電動グランドツアラーの可能性(2)にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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