胸が打たれるアウトバーンの走り アウディeトロンGTで欧州大陸を巡る 電動グランドツアラーの可能性(2)
公開 : 2023.10.07 20:26
タイトコーナーが連続する区間との相性も◎
周囲が暗くなる中、アルプス山脈の麓のホテルへ到着。ピルスナー・ビールと引き換えに、充電は諦めた。翌朝は、60km離れた急速充電器まで丁寧に走らせる。今回のロングドライブで、唯一エネルギー効率を強く意識した時間となった。
BMW 320dツーリングに追い越されながら、淡々とアウトバーンを流す。電費効率は、4.7km/kWhほど。正直あまり良くはない。
制限速度のない区間を本気で飛ばしたら、電費は1.6km/kWh程度まで落ち込むだろう。航続距離は、145km前後まで悪化する計算になる。それでも、飛ばしたい気持ちを抑えることは簡単ではない。
駆動用バッテリーを満たし、イタリア北部、ボルツァーノの街へ抜けるペンネス峠へ。引き締まったシャシーに、高精度なステアリングと鋭いパワートレインが組み合わさり、eトロンGTはタイトコーナーが連続する区間との相性も悪くない。
目的地までは無充電で辿り着ける距離だが、それは手加減した場合。自由奔放に右足を動かせば、その可能性は低くなる。
かくして、その先のヴェローナまでの1465kmに要した充電時間は、合計115分。充電にかかった金額は199ユーロ(約2万9000円)で、消費した電気は268kWhとなった。
BMW M5なら、ざっくり160Lのハイオクを燃やしたことだろう。給油に支払う金額は、約300ユーロ(約4万3000円)になる。ただし、数分でガソリンタンクは満たされるはずだが。
EVの高級グランドツアラーへ広がる可能性
今回のロングドライブでは、バッテリーが空になる不安へ襲われることはなかった。もっとも、行く先の充電器の場所を都度確認していたからではあるが。
eトロンGTの能力を存分に堪能できたかと聞かれると、充分にはできなかった、というのが本音。現在の航続距離では、慎重にならざるを得ない。
充電計画を、予め組み立てておくことも欠かせない。充電には数10分かかるだけでなく、先の利用者がいた場合は、終わるまで数10分待つ可能性もある。加えて、充電速度は常に変化するため、必ずしも最短時間でフル充電になるわけではない。
それでも、筆者はバッテリーEVの未来へ楽観的ではある。eトロンGTは、心を震わせるほどの魂を宿していないかもしれないが、アウトバーンを静かに駆け抜ける快適性は見事なものだ。
瞬間的に220km/hまで加速できる余裕の動力性能を備え、高めの速度域を維持するのも容易い。連続する高速コーナーを流暢に淡々と処理する能力には、胸が打たれた。
バッテリーEVへ熱い魂を吹き込むことは、簡単ではないかもしれない。だとしても、航続距離の課題は今後解決されるだろう。内燃エンジンを積まない高級グランドツアラーに、大きな可能性が広がっていることを、この旅で確認することができたと思う。
アウディ eトロンGT(英国仕様)のスペック
価格:11万2000ポンド(約2027万円/試乗車)
全長:4989mm
全幅:1964mm
全高:1413mm
最高速度:244km/h
0-100km/h加速:4.1秒
航続距離:490km
CO2排出量:−
車両重量:2347kg
パワートレイン:ツイン永久磁石同期モーター
バッテリー:83.7kWh
最高出力:475ps(530ps/オーバーブースト時)
最大トルク:65.1kg-m
ギアボックス:1速リダクション(フロント)/2速リダクション(リア)(四輪駆動)
画像 無敵マシンのような信頼感 アウディeトロンGT 基礎を共有するタイカン 最新Q8 eトロンとフィスカーも 全132枚