トヨタ・サイ
公開 : 2013.10.27 19:55 更新 : 2017.05.29 18:48
SAIを最初からずっと担当し続けている加藤亨チーフエンジニア(CE)は、デビューから丸4年経過しての今回のマイナーチェンジを「実質的にはフルモデルチェンジなみ」と表現する。
たしかに基本骨格やパワートレインこそ従来どおりだが、ボディ前後デザインやインテリアデザインの大改変に加えて、ボディのスポット溶接40カ所増し打ちに強化パネルの追加、吸遮音材の大量追加、トヨタ・セダン初というの遮音ガラスの新採用、エンジンマウント設計変更、サスチューン全面見直し、ハイブリッドにスポーツモード追加、上級18インチ車にパフォーマンスダンパー採用、パワーウィンドウのスローストップ機能……と、4年間の空白を本気で取り戻そうとする気概はうかがえる。パワートレインはカムリと同じ新世代2.5ℓベースも物理的に搭載可能だったはずだが、実際に積むには膨大なコストが必要だそうで、ここだけは従来型2.4ℓの熟成にとどまる。
ご承知の人も多いように、SAIはレクサスHS250h(以下HS)と兄弟車である。富士山のようなキャビン形状まで含めて基本骨格は両車共通。パワートレインももちろん同じ。SAIは2009年秋にHSの約3カ月遅れで発売されたから、SAIを「HSのディチューン廉価版」ととらえる向きも多かった。
SAIデビュー当時の加藤CEへのインタビューで、HSの発売が先行したことを質したとき「それは大間違い、SAIが先なんです!」と、ちょっとキレ気味に強く主張したことを思い出す。実際の開発もまずはSAIでスタートして、カタチになりかけたSAIを見た上層部が「このレクサス版もつくれ」と言い出したのが、HS誕生のキッカケだったらしい。それ以降、SAIとHSはまったく別のチームが開発した。
加藤CEは、かつてプログレを手がけた人物でもある。SAIの商品企画も、最初からハイブリッドだったわけではなく、いわばプログレの市場を受け継ぐ“日本専用の高付加価値コンパクトセダン=小さな高級車”という着想からはじまっている。SAIが発売される2010年前後以降の高級車像を“先進、安全、環境、クリーン、シック”がキーワードとなる……と定義した加藤CE以下のチームは、マークXなみの高価格セダンであるSAIなのに、大面積メッキ部品やウッド調パネルを一掃して、内装にはリサイクル素材を積極採用。必要以上の静粛対策も省いて、重厚感より軽快なドライブフィールを優先した。そしてコストをハイブリッド(当時はまだ希少なハイテクだった)や高機能ナビの標準化に振り分けて、さらに細かなスイッチ類をすべて開閉パネルで目隠ししたうえで、レクサスとは異なる独自のリモコンシステムを運転席の一等地にドーンと置いた。こうして完成したSAIをどう思うかは人それぞれだが、少なくとも開発陣の思いは理想主義的かつ野心的で、じつに熱かった。
エコカー減税&補助金導入とドンピシャのタイミングで発売されたSAIは、最初は良く売れた。しかし、エコカー減税対応モデルで他社が追いついて、エコカー補助金がストップすると、SAIの売上は失速。最近は月販数百台レベルまで落ちていたという。