なぜ、Nボックスは売れ続ける? 新型に試乗 ホンダでは珍しい「熟成」で勝負に

公開 : 2023.10.05 11:34

シート・視界・ADASについて

パッケージングは先代と同じだが、シートはウレタンの形状と表皮の貼り方を工夫して、沈み込むような感触が得られるようにしたとのこと。これは試乗でも確認できた。

ステップワゴンに続いて後席からの視界やフラットな乗り心地にも配慮して、乗り物酔いしないクルマに仕立てたという。

車椅子のまま乗り降りできるスロープ仕様車(福祉車両)も発売。標準型とカスタム、FFと4WDを選べる。価格は184万4000円~218万8000円。
車椅子のまま乗り降りできるスロープ仕様車(福祉車両)も発売。標準型とカスタム、FFと4WDを選べる。価格は184万4000円~218万8000円。    宮澤佳久

スロープ仕様では荷室容積が拡大された。ほとんど利用されていなかったアシストグリップをなくしたことが大きい。新型ではレジャーにも活用してほしいとのことで、撮影車両にはキャンプなどで使うキャリーワゴンを用意していた。

前述のように、エンジンは2代目の完成度が高かったためもあって、改良に留めた。それでもWLTCモード燃費は自然吸気で21.2km/Lから21.6km/L、ターボで 20.2km/Lから20.3km/Lに向上を果たしている。

定評の先進運転支援システムは、カメラの検知角度を50度から100度に広げることで、側方の車両の動きも把握。ペダル踏み間違え防止としては、誤発進抑制機能に加え、近くの車両や外壁などを検知してブレーキを掛けるとともに、障害物がなくても急なアクセル操作を抑制する機能を追加した。

標準車 「乗り心地」の秘密

まず乗ったのは標準車。

自然吸気エンジンでありながら、望むだけの加速がリニアに手に入る。CVTが臨機応変に変速パターンを変えてくれることがわかった。

エントリーモデルにあたる新型Nボックス(164万8900円/内装色グレージュ×グレー)。
エントリーモデルにあたる新型Nボックス(164万8900円/内装色グレージュ×グレー)。    宮澤佳久

自然吸気なので音はそれなりに届いてくるものの、それが軽自動車らしからぬ低めのサウンドだったことも印象的だ。

実は新型、遮音にも気を配っていて、フロアの穴にフィルムを貼るとともに、天井裏のウレタンの形状を変えるなどの対策を施している。これが耳障りでない音に結びついているのだろう。

乗り心地は2代目も悪くなかったが、新型はしっとり感とフラット感がアップしているような気がした。直進安定性に優れ、ハンドリングが素直だったことも確認できた。

実は新型、フロントサスペンションのキャンバー調整やリアのサスペンションの剛結の方法を変えている。

これまで空車状態でやっていたものを、積車状態に変えたのだ。その効果が大きいのではないかとのことだった。

カスタム・ターボの印象は?

でも進化の度合いで言えば、カスタムのターボのほうが顕著だった。

こちらはダンパーを新開発している。改良だけでは望む性能が得られなかったので、新規に部品を起こしたそうだ。

新型Nボックス・カスタム・ターボ・コーディネートスタイル(222万9700円/FF/2トーン/スレートグレーパール )
新型Nボックス・カスタム・ターボ・コーディネートスタイル(222万9700円/FF/2トーン/スレートグレーパール )    宮澤佳久

その効果は明確で、硬くはないがしっかり押さえが効いた、プレミアムという言葉を使いたくなるレベルを獲得していた。

加速はターボらしい力強さはそのままに、角が取れてまろやかになった。

発進の瞬間、その後のターボの盛り上がりなど、すべてを滑らかにやってのける。床と天井の遮音はこちらも効いていて、調律されたサウンドを響かせていた。

試乗にお付き合いいただいた開発スタッフのひとりに、3世代続けてコンセプトを変えないのはホンダでは珍しいと問いかけたところ、たしかに熟成型の開発はホンダは不得意であまりやらなかったし、上層部からは「開発期間が短くてもいいのでは?」と言われたが、“時代に合わせて上質にしたい”という気持ちを貫いたとのこと。

同氏いわく「やり切った」という新型は、たしかにこれまで以上に純度の高いNボックスになっていた。

記事に関わった人々

  • 執筆

    森口将之

    Masayuki Moriguchi

    1962年生まれ。早稲田大学卒業後、自動車雑誌編集部を経てフリーランスジャーナリストとして独立。フランス車、スモールカー、SUVなどを得意とするが、ヒストリックカーから近未来の自動運転車まで幅広い分野を手がける。自動車のみならず道路、公共交通、まちづくりも積極的に取材しMaaSにも精通。著書に「パリ流環境社会への挑戦」(鹿島出版会)「MaaSで地方が変わる」(学芸出版社)など。
  • 撮影

    宮澤佳久

    Yoshihisa Miyazawa

    1963年生まれ。日大芸術学部写真学科を卒業後、スタジオ、個人写真家の助手を経て、1989年に独立。人物撮影を中心に、雑誌/広告/カタログ/ウェブ媒体などで撮影。大のクルマ好きでありながら、仕事柄、荷物が多く積める実用車ばかり乗り継いできた。遅咲きデビューの自動車専門誌。多様な被写体を撮ってきた経験を活かしつつ、老体に鞭を打ち日々奮闘中。
  • 編集

    徳永徹

    Tetsu Tokunaga

    1975年生まれ。2013年にCLASSIC & SPORTS CAR日本版創刊号の製作に関わったあと、AUTOCAR JAPAN編集部に加わる。クルマ遊びは、新車購入よりも、格安中古車を手に入れ、パテ盛り、コンパウンド磨きで仕上げるのがモットー。ただし不器用。

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