ベントレー・フライングスパー

公開 : 2013.08.28 18:43  更新 : 2017.05.29 19:03

アコースティックという英語の意味は、わが国では誤解されていたりする。それをアコースティックギターとエレキギターという対比から誤解して、電気的に増幅していないという派生的な用い方だけで捉えているひとが多いのだ。だが、アコースティックの語源は「聴く」であって、真の意味は音が発してそれが伝わっていくときの特性のこと。フォークギターやクラシックギターは、自らのボディで音を外に広げていく特質を備えるからアコースティックの形容詞がつくのである。

本質的にはそういう意味を持つこの言葉は、自動車の室内にも適用される。そして、新型フライング・スパーのキャビンのアコースティックは、そのアーキテクチャの原初であるフォルクスワーゲンや、従兄弟であるアウディなどのそれとはかなり違うものだった。

それらを含めたドイツ車のキャビンの音響特性は700Hzあたりの中音域にピークがあることが多い。例えばステアリングリムに巻いた革を乾いた手で摩ると、カサカサと硬い音があたりに響く感じがする。それに比べてフライング・スパーのそれは、乾いた硬さのピークはなく、抑制が十分に効いた重心の低い響きだった。抑制といってもフランス車のような柔らかさで包み込むような響きとも違う。フランス車は、フランス語の響きがそうであるように、微妙な湿り気を伴う柔らかさを備えている。かたやフライング・スパーは木質の芯をもつかのごとき重厚なそれで、キングス・イングリッシュの響きと似ている。思えばドイツ語は擦過音が耳につく。それぞれの国のクルマのキャビンのアコースティックは自分たちの話す言葉の特性に似てくるのかもしれない。

とまあ、そんな風にフライング・スパーは居心地がまったくドイツ車的ではない。VWフェートンから2+2座クーペのコンチネンタルGTが派生し、そのコンチネンタルGTを4ドアサルーン化してフライング・スパーが生まれ、そして一種のビッグマイナーチェンジで新型が生まれたにもかかわらず、そういう機械の樹形図とは関係なく、きわめてイギリス車的な音響特性をそのキャビンは備えているのである。つまり、フライング・スパーはイギリスの情緒で仕上げたスーパーLセグメントに属するサルーンであり、VWだと謗るほうが笑われることになるのだ。

関連テーマ

おすすめ記事

 
最新試乗記

人気記事