ロンドン大気汚染対策に真っ向から反対 「不公正」な政治にNOを突きつける運動家を直撃

公開 : 2023.10.10 18:25

なぜロンドンULEZに反対するのか

数日後、わたしはエリオットさんの家を訪ねた。彼の話を聞く前に、ロンドンから遠く離れた場所に住んでいる彼が、なぜULEZについてこれほどまでに思い悩んでいるのかを知りたかった。

「それは、ここに住んでいて、ULEZの規制には適合していないけれども、仕事や友人や家族に会うためにロンドンにクルマを走らせる人たちが、TfL(ロンドン交通局)からこの制度が実施されること、そして、もし(対象区域の)拡大後にこのゾーンに入ったら、課金されることを警告する手紙を受け取ったとわたしに教えてくれたからです」

反ULEZのステッカーを貼った商用バン
反ULEZのステッカーを貼った商用バン    AUTOCAR

「TfLが人々を追跡し、税金を無駄遣いして手紙を書くなど言語道断です」

その後、TfLの広報担当者は、2月から7月までの間に、グレーター・ロンドンで非適合者を運転しているドライバーに対して、100万通以上の警告書を送ったことを確認した。しかし、TfLは警告書を投函したDVLA(運転免許庁)にとって “商業上の機密事項 “であるという理由で、どの程度の費用がかかったのかは明らかにしなかった。

自身をはじめ、さまざまな人々の生活を妨害していると考える政治家たちに対するエリオットさんの反対運動は、ディーゼル商用車を一掃するためにロンドンのLEZ(低排出ガスゾーン)が導入された2008年にさかのぼる。

「わたしはロンドンに住み、トラックで回収業を営んでいました。新しい規制がわたしの仕事を脅かしたのです。わたしは抵抗しようとしましたが、誰も耳を貸さず、結局、トラックをアップグレードする余裕がなかったため、わたしのビジネスは最終的に潰れてしまいました」

止められなかったULEZ拡大

この経験から、エリオットさんは、人々の生活と生計に介入してくる “お節介な政治家たち “に抵抗する決意を固めた。しかし、そんな彼(と仲間)を動揺させたのは、ULEZの対象区域拡大と、自動車物品税や燃料税の代わりに走行距離あたりで加算される料金の脅威だった。

名前を出さないという条件で、彼はWhatsAppグループを共有している人々のリストを見せてくれた。主にソーシャルメディア上で人気のある人物や、モータースポーツやその関連分野の運動家たち、それに政治家も数名参加している。

反ULEZデモ
反ULEZデモ

その目的は、情報やアイデアを共有することにあるようだ。極端なものではないが、陰謀論者のにおいがするメンバーもいた。これはエリオットさんの主張の一面であり、少々辟易させられるところもあるが、彼は弁解はしない。

「陰謀論と現実の差は6か月。一方は常に他方に続くものです。ULEZは資金集めのためのものです。道路から古いクルマをなくしたら、彼らがやめると思いますか? ガソリン車はユーロ5以上、ディーゼル車はユーロ7以上でなければならないようにハードルを上げるだけです」

エリオットさんは知的で明晰、天性のオーガナイザーであり(「わたしは人々を集め、共通点を見つける」という)、繊細でもある。

例えば、障害のある息子を持つ父親が、ULEZ非適合の商用バンから、適合していると思っていた新型のバンに買い換えたところ、実は適合していないことが判明したという話が出てきた。「新しいバンは値下がりし、彼には大きな借金が残った」とエリオットさんは心から心配している。

しかし、彼の抗議はすべて時間の無駄ではなかったのだろうか? ULEZの拡大は実現しつつあり、RAC(王立自動車クラブ)でさえ、ULEZの標識の設置に抵抗しているロンドンの自治区に対し、ドライバーに十分な警告を与えるために「譲歩」するよう助言していた。

「無駄だなんて、とんでもない」とエリオットさんは主張する。「カーンは永遠に市長でいられるわけではないし、わたしがタイタニック・モーメントと呼んでいる(映画で船長が自分の船が不沈ではなかったことに気づく)瞬間は、もうすぐそこまで来ています。ロンドン市民も、ULEZに入る人も、タイタニック・モーメントを迎えようとしているのです」

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジョン・エバンス

    John Evans

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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