新鮮な空気から燃料を作る方法 CO2と水素で「eフューエル」製造 ポルシェが挑戦

公開 : 2023.10.11 18:05

・ポルシェは南米チリで合成燃料「eフューエル」を生産、開発中。
・DAC技術により大気中からCO2を回収し、グリーン水素と結合。
・CO2ニュートラルだが、普及するのか。課題は製造コスト?

ポルシェが挑む合成燃料への道

ポルシェとパートナー企業は、南米チリのハルオニという実証プラントでeフューエル(合成燃料)の生産を軌道に乗せている。

次のステップは、生産を可能な限り持続可能なものにするために、大気から直接空気を回収する技術「DAC」を開発することである。

ポルシェは南米チリで合成燃料の開発を進めている。
ポルシェは南米チリで合成燃料の開発を進めている。

DACで大気中から回収したCO2は、風力発電による電気分解を利用して生成されたグリーン水素と結合される。水素とCO2は合成プロセスで結合されてメタノールとなり、このメタノールをさらに加工するとeフューエルとなる。

我々が関心を寄せているeフューエルは、化石燃料のガソリンと化学的に同等の合成ガソリンだが、航空用ジェット燃料として配合することもできる。既存のエンジンで使用することができ、将来的に大規模な生産が実現すれば、既存のインフラや給油所を利用してできる。

今年初めに生産を開始したハルオニ工場では、当初はバイオマスから生成されたCO2を使用していた。植物が成長する過程でCO2を吸収するため、CO2ニュートラルとされる。

DACによるCO2取得は、バイオマスの処理が省かれるため、より簡単である。また、DACプラントはどこにでも設置でき、規模を拡大すればグリーン燃料の大量生産に必要な大量のガスを作ることができるなど、柔軟性がある。

大気からCO2を抽出するプロセスとしては、まず空気をきれいにして大きな汚れを取り除き、その空気をフィルターに通してCO2を捕捉(吸着)する。補足後、加熱することによってCO2が抽出され、副産物として水だけが残る。

プロセス全体で使用する電力は、3.4GWのシーメンス・ガメサ製風力タービンで生産される。そして、シーメンス・エナジーの電気分解機(水素燃料電池の働きを逆にしたようなもの)により、水を水素と酸素に分解して純粋な水素を生成する。電気分解で生じた廃熱は回収され、CO2抽出プロセスに利用される。

完成した合成燃料には炭素が含まれており、燃料使用時に放出されるが、この炭素は化石由来ではないため、循環的で持続可能であるとされている。大気中に排出されるCO2は大気からもたらされたものだが、合成燃料は既存のCO2を完全に取り除くわけではない。

すでに世界中で多くのDACプロジェクトが稼動しており、合成燃料を作る以外に、非化石ベースのプラスチックを作る原料としても利用できる。

今年初めに発表されたポツダム気候影響研究所の報告書によれば、このプロジェクトは大きな可能性を秘めているものの、今後も希少な存在であり続ける可能性が高いという。

同報告書によれば、6000万ポンド(約110億円)のパイロットプラントで最初に製造される燃料の製造コストは、1Lあたり約43ポンド(約7800円)だが、工業規模では86ペンス(約156円)にまで下がるという。しかし、それでもガソリンの卸売価格の2倍になる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェシ・クロス

    Jesse Crosse

    英国編集部テクニカル・ディレクター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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