既存技術の寄せ集めだけじゃない ジェンセン541 FRPボディのグランドツアラー(1)
公開 : 2023.10.28 06:45
フラットなパネルが見当たらないデザイン
正式にFRPボディの541が発表されたのは、1954年のロンドン・モーターショー。1963年にクライスラーのV8エンジンを搭載したC-V8へバトンタッチするまで、4種類の仕様が提供されている。
ジェンセンは、約10年に渡って541を進化させた。時代に合わせシートベルトは標準装備になり、ブレーキはドラムからディスクへ改良されていった。
AUTOCARでは過去にも541をご紹介しているが、今回はその4種類を揃えることが叶った。最初期のベーシックな541と、シャシーへ変更が加えられた541 デラックス、フェイスリフト後の541 Rは、見た目がかなり似ている。
フロントマスクが一新された541 Sは、歴代最大の変化が与えられた最終仕様。後継モデルのC-V8へ、バトンを繋ぐ役割があったともいえるだろう。
ダークブルーの541は、リー・ピルキントン氏がオーナー。1955年式で、ジェンセン・モーターズ社の工場から19番目にラインオフした車両だという。
デザイナーのニールによる、スタイリングの特徴が良く表れている。ピルキントンは35年も維持しており、オリジナル状態を保つことへ強いこだわりを持っている。15インチのワイヤーホイールも、オプションで用意されていた当時物だ。
ルーフラインがドーム状に膨らみ、ボンネットはグラマラス。テールエンドはかなり複雑。どこから見ても、フラットなパネルは見当たらない。
可動式のラジエーターフラップ
ホイールアーチの上部に、メルセデス・ベンツ300SLのようなリブが伸びる。カーブを描くフロントフェンダーの峰はサイドウインドウへ結ばれ、リアフェンダーで1度キックアップし、バンパーへ向けてなだらかに落ちる。
リアピラー上のウインカーが、滑らかな面構成へ水を差す。保守的な英国市場へ向けたクーペとしては、スタイリングは非常に大胆。ディティールの処理に好き嫌いは分かれそうだが、全体的なバランスは良いと思う。
フロントバンパーの裏側にあるノブを捻ると、クラムシェル・ボンネットが開く。オースチン由来の直列6気筒、DS5ユニットがバルクヘッド側に収まっている。隅々まで目視でき、確かにメンテナンスしやすそうだ。
ピルキントンはボンネットを閉め、フロントグリル内のラジエーターフラップを開閉してみせる。エンジンの始動直後は、閉じて暖機を早められる。走行時は水平に倒し、冷却効率を高められる。
インテリアは、スタイリングと比べれば従来的。3スポークの大きなステアリングホイールはオリジナル品ではないが、ダッシュボード上には必要なメーターとスイッチ類が整然と並ぶ。
4枚のメーターはイェーガー社製。スピードとタコは、ステアリングホイールで一部が隠れてしまう。巨大なトランスミッション・トンネルは、レッドのカーペットで覆われる。
足元は広くないものの、必要充分。丸いアクセルペダルの横に、スライド式の通気口がある。バケットシートの座面は低く、ダッシュボードの上面が高い位置へ来る。
この続きは、ジェンセン541 FRPボディのグランドツアラー(2)にて。