大胆な容姿に卓越した能力 ジェンセン541 FRPボディのグランドツアラー(2)
公開 : 2023.10.28 06:46
152psへ増強された541 R 最高速度は205km/h
デラックスと同じ1957年に登場したのが、541 R。外観上の違いは、リデザインされたテール周りと長方形のテールライト、クロームメッキの長いサイドトリムなど。
トランクリッドのヒンジは上部へ変更。ホイールアーチ上部のリブは大型化され、前後のバンパーにはオーバーライダーが追加されている。シフトレバーは、大きな峰の中央へ移動した。
ステアリングラックは、現代的なラック&ピニオン式へ。しかしダンパーは、一般的なシリンダー状のテレスコピック式から、旧来的なレバーアーム式へ逆行的な変更も加えられている。
エンジンはオースチンのDS7ユニットへアップグレードされ、最高出力は152psへ増強。当時のAUTOCARの計測では、最高速度205km/hをマークし、541 デラックスから20km/h向上していた。ところが信頼性に課題があり、生産数は53台に留まった。
今回のダークブルーのオーナーはビッド・ヒルマン氏。彼はセミ・レーシング仕様へチューニングし、180ps以上まで引き上げたという。
始動時から、エンジンサウンドは勇ましい。吸気音を伴う重層的な響きが心地良く、軽快に吹け上がる。主張される数字ほど、パワー感はないようだが。
それでも、ドライビング体験には惹き込まれる。セパレートシャシー構造を、増強されたパワーユニットが刺激する。レバーアーム式ダンパーの姿勢制御と相まって、少し過激にすら思える。
ステアリングの精度は高く、情報量が多い。レザー巻きのステアリングホイールは握りやすい。ブレーキも強力で頼もしい。
革新的で魅力的なグランドツアラー
最終仕様となる541 Sが1960年に発売される時点で、ジェンセンはクライスラーのV型8気筒エンジンを検討していた。そのサイズを前提に、ボディの幅は約100mm拡大されている。しかし、実現はしなかった。
この541 Sは、フロントグリルやボンネットが一新され、簡単に見分けが付く。デレク・シモンズ氏がオーナーの1台はボディがレッドで、一層目立つ。
フロントグリル内のフラップはなくなった。リア周りのデザインにも手が加えられ、ピラー部分のウインカーは省略されている。
車内は明るく快適。ダッシュボードは新しくなり、メーターの位置が見やすく改められ、人間工学的にも改善している。
トランスミッションは、ハイドラマティックと呼ばれるGM社の4速オートマティックが標準。シフトレバーがステアリングコラムから伸び、モス社製の4速MTはオプションへ切り替えられた。このATのおかげで、動力性能は明らかに低下している。
シモンズの541 Sには、1970年代にジャガーのパワーステアリングが後付けされている。低速域での扱いやすさは向上しているが、コーナリング時の繊細な手応えは若干失われている。実際は、541 Rと同等に明瞭なはず。
今回は4種の541を並べてみたが、その違いを超えて、当時はアストン マーティンやジャガーへ対峙できる内容にあったことは間違いないだろう。既存の技術を巧みに融合させ、革新的で魅力的なグランドツアラーが創出されていた。
この成功で、ジェンセンは次世代を提供する可能性も見出すことができたのだ。
協力:デビッド・ターネージ氏、ジェンセン・オーナーズクラブ