アクセルは強烈なGの調整スイッチ メルセデスAMG EQE 53へ試乗 感情的な高まりは得難い
公開 : 2023.10.24 19:05 更新 : 2023.10.25 08:13
アクセルペダルは強烈なGの調整スイッチ
AMG EQE 53のパワーに不足はない。駆動用バッテリーはEQE 350+と同じだが、駆動用モーターは専用品。内部コイルの構造が異なり、制御される電流も多い。
0-100km/h加速に要する時間は3.4秒。ダイナミックプラス仕様ではローンチコントロールが装備され、3.2秒へ短縮される。メルセデスAMGが提供した4ドアサルーンとして、過去最速の加速力を誇る。
公道を走らせてみると、数字が示すとおり、EQS 53のたくましさに感心する。右足へ力を込めれば、内臓が後ろへ引っ張られるような感覚を伴う。助手席の同乗者は、悲鳴を上げるかもしれない。
ドライブモードによって展開される最高出力は変化し、スリッパリー(滑りやすい路面用)で312ps、コンフォートで500ps、スポーツで563psまで許される。スポーツ+モードを選択すると、625psのすべてが開放される。
ダイナミックプラス仕様の686psは、ローンチコントロール時にしか引き出せない。それでも、不満ないほど速い。
レスポンスも秀抜。右足の角度に対し瞬間的に加速力が立ち上がる。625psを発揮することにも躊躇は感じられず、アクセルペダルは強烈なGの調整スイッチのようだ。
とはいえ、これは近年のバッテリーEVでは珍しいことではない。ポルシェ・タイカン・ターボは、約3年前から同様な体験を叶えていた。テスラ・モデルSは、10年前に実現していた。
しっくり来ない人工音 流暢な身のこなし
もちろん、エンジンサウンドは伴わない。そこで同社の技術者は、新しい聴覚体験が必要だと考えた。走行速度やアクセルペダルの角度に応じて、V8エンジンを模したものではない、人工音が車内で再生される。
停止中にも、脈動するような唸りが聞こえる。音質は、映画スター・ウオーズでライトセーバーを振り回す音や、ジェットエンジンの響きに近いと感じた。
その受け止め方は、人それぞれだろう。筆者には、他メーカーの人工音と同様に、高性能モデルの音響としてはしっくり来なかった。
EQE 53には後輪操舵システムが備わり、ボディサイズを考えれば取り回しがしやすい。エアサスペンションも標準で、2600kgある車重ながら、姿勢制御も優秀。実際、路面の傷んだ市街地からカーブの連続する峠道まで、条件を問わず流暢に身をこなす。
大きな入力が加わっても、乗り心地は落ち着いている。ただし、動力性能に見合った硬さはある。
駆動用バッテリーが低い位置に敷き詰められ、コーナリング時は重心の低さが伝わってくる。不必要という理由でアクティブ・アンチロール機能は備わらないが、タイトコーナーを鋭く旋回しても、僅かにボディロールを示す程度だ。
スタビリティ・コントロールの縛りが緩くなるスポーツ・モードを選択すると、リアアクスル主体の操縦性を楽しめる。メルセデスAMGによって磨かれた、シャシーの能力を解き放てる。