反応や感触も自由自在? これからの「ステアリング」技術 運転の苦手な人、クルマ好きにも利点

公開 : 2023.10.17 18:05

走行フィールの課題、メリットとは

ステア・バイ・ワイヤの機械的な仕組みは単純。ステアリングホイールがゲーム機のようにコントロールユニットを動かし、ステアリングラックの電気モーターが実際に車輪を動かす。

この2つをつなぐコンピューターの頭脳が、ドライバーのステアリング入力から信号を受け取り、ステアリングラックに中継する。注意点は、車輪の動きを決定するのはコンピューターであり、必ずしもドライバーではないということだが、そのメリットとして、ステアリングロックをほぼ無段階に変えられるということが挙げられる。トヨタレクサスの場合、駐車時の低速度でステアリングホイールのターンを左右わずか150度まで減らすことができる。

ステア・バイ・ワイヤを導入するレクサスRZ
ステア・バイ・ワイヤを導入するレクサスRZ    レクサス

ステア・バイ・ワイヤは、事故回避のような半自動的な安全システムにおいてもメリットがある。万が一の際にドライバーが素早く反応できなかった場合、車両側がステアリングを切り、回避を試みることができる。

タイタン社の技術責任者であるポール・ウィルキンソン氏は、ステア・バイ・ワイヤがもたらす「チューニングのしやすさ」が大きなメリットだと考えている。直線のクルージングと市街地走行を区別するアルゴリズムにより、走行状況に合わせてフィードバックを調整することができる。

あるいは、現在と同じように、走行モードを任意で選択することもできる。サスペンションの「スポーツ」と「コンフォート」、パワートレインの「ノーマル」、「スポーツ」、「エコ」など、ドライバーの設定に応じてステアリングのレスポンスとフィーリングを適応させるのだ。

電動パワステが登場した当初は、それまでの油圧機構と比べてフィーリングやフィードバックに欠けるというデメリットがあった。しかし、エレクトロニクスの進歩により、開発エンジニアは内部摩擦や周囲温度の変化さえも補正できるようになった。

ウィルキンソン氏によると、路面からのフィードバックをステアリングホイールに伝える際の最大の問題の1つは、ステアリングラックを作動させる電気モーターの慣性であり、事実上、ドライバーへのフィードバックがほとんど届かないことだったという。

そこでタイタン社は、電気モーターの慣性のデジタルモデルを作成し、制御ソフトウェアでそれを補正することでこの問題を解決した。車輪からドライバーの手にフィードバックが伝わるよう、電気モーターが反応するという。

運転が苦手なドライバーにとっては、小径ホイールやジョイスティックなどで運転できるというメリットもある。民間および軍用の航空機分野でも長年フライ・バイ・ワイヤが使われてきたが、システムは完全に冗長化されており、重要なハードウェアないしソフトウェアが故障した場合でも、すぐに対応できるよう機械式のバックアップが用意されている。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェシ・クロス

    Jesse Crosse

    英国編集部テクニカル・ディレクター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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