メガーヌRS

公開 : 2013.06.26 15:39  更新 : 2017.05.29 19:45

ルノースポールがメガーヌRSを使い、鈴鹿で道場破りをしたことはすでにご存じだろう。それに気をよくしたのか、今度は自動車媒体を筑波に集めて、メガーヌRS+新商品ホイールでタイムアタックを実施した。ニュルブルクリンクFWD最速の座を獲得するにとどまらず、その聖地でさらなるタイムアタックを展開していることもすでに伝え聞くが、何をいまさら? の感は拭えない。ルノーがFWDのハンドリングカーとして優れたブランドであることは、遠い昔から承知の事実だからだ。遡ればサンクがある。1990年代前半に上陸したクリオ16V(日本名はルーテシア)では、日本の自動車メーカーにも大きな衝撃を与えた。

特別ボディ剛性が高いわけではないが、サスペンションは上下にゴムのような弾性感を備え、ロールもピッチングも凹凸も、包み込むように丸く吸収してしまい、乗員に角張った印象を与えない。転舵すればボディをよじるようにしながら、”グニュー“とノーズからソフトに吸い込まれるように曲がるその感触は、当時のFWDスポーツの最たるモノだった。VWゴルフよりも強く、プジョーともシトロエンとも異なる、独創の個性を放っていたのだ。

当時、その事実を国産メーカー開発陣に話すと、レースでもストリートでもFWDの王者たる地位を確立していたホンダは即座に購入し、テスト走行を繰り返した。それがその後の彼らのクルマ造りで、大いに参考になったことは疑う余地もない。

一時期、フランス勢は一斉にそのハンドリングと乗り味をドイツ流に向けたことがある。しかし数年後、フランス車の誇りと文化に回帰すべきと気づいたらしい。結果、ルノーはもとよりプジョー/シトロエンもフランス流の、ソフトななかにも確実に硬い芯がある乗り味とハンドリングに進化した。メガーヌRSはそうした流れを実感させる、往年の味を継承しつつもドイツ流の硬さをルノー流に解釈して注入した、まさに現代のフランスのエスプリ、いやルノースポールらしさを感じさせる一台である。

その走りをさらに際立たせる高剛性で超軽量な鍛造アロイホイールが、今回の“RSF01”だ。デザインは、カンパニョーロでキャリアをスタートさせ、とくに2輪のレーシング用およびスポーツ系ホイールのデザイナーとしてこの道50年の、ロベルト・マルケジーニ氏が手掛けている。

キングピン軸がタイヤ中心にくるジオメトリー設定を持ったダブルアクスルストラットサスペンションの効果を継承するため、リム幅8.25J、インセット+65mmの各数値は純正ホイールと同一にされた。また、鍛造による強度と剛性が可能にした、華奢に感じるほど繊細な肉抜き加工されたスポーク形状によって単体重量は8.35kgに抑えられ、純正比で1本あたり3.3kgの軽量化を実現している。

梅雨の晴れ間の高温多湿な状況下では、タイム的にはとくに見るべきものはないと思うが、それでもアドバン・ネオバの最新仕様“AD08R”の大舵角まで変わらないグリップ力の高さと、接地変化やトルクステアなどを見せない操縦性には、改めてメガーヌRSのポテンシャルを知ることになった。

旋回途中から強引にアクセルを踏み込むと、ヘリカルLSDの威力とAD08Rのコーナリングパワーが同時に立ち上がり、まさにタイヤの接地面全体を使い、イン側に引き込まれるかのように曲がる。縦方向にも強いグリップ力で、旋回加速もダイレクトに伝わる。ホイールの効果がわかるかと問われると、標準と比較ができればともかく、純粋には体感できない。しかし、ステア操作の入力でハイグリップなAD08Rによるサスやボディに生じる動きをまさにミリ単位で伝えてくる正確さは、ホイールとタイヤが一体になった剛性の高さによるものだ。

一般的に高負荷で連続走行すると、タイヤは内圧の上昇と発熱によってグリップ力が低下する。そこで素晴らしいと思わず唸らされたのは、2周のホットラップと1周のクールダウンを1セットとした走り方をしたときに、次のセットで明確に蘇るグリップ力である。捻れの少ないタイヤとホイールによってコーナー進入では初期転舵が正確に効き、予想より早く、そして大きく、ノーズはインを向く。また脱出時には、入力した舵角を戻しながらコーナリングを終えられる。つまり、軽さからくる制動時間の短さも含め、負荷を受けている時間が短くてすむわけだ。おかげで効率よく冷却できているのだろう。その意味では、ハンドリングカーであるメガーヌRSをさらに際立たせるホイールとタイヤの組み合わせが体感できたといえよう。

(文・桂伸一 写真・花村英典)

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