マツダ・アテンザXD
公開 : 2013.03.26 16:30 更新 : 2017.05.29 19:13
最初にドライブしたのはXDだった。ジャッジは冷静に下さなくてはならないが、とはいっても個人的には、最近この業界に急増している(?)ディーゼル党であることを告白しておかなければならないだろう。エンジンスタートの瞬間の音ですぐにディーゼル機関であることはわかるが、それはこちらが耳をそばだてているからであり、助手席にウチの奥さんあたりが乗っていたら何も気がつかないはずである。一旦アイドリングがはじまるとディーゼルノックのトーンは低くなり、最近よく出くわす“直噴システムが騒々しいガソリン・エンジン”と変わらない程度の音量に落ち着く。
XDの加速は想像以上で、スロットルの最初のひと踏みから怒涛のトルクが押し寄せ、少し右足に込めた力を戻すことが度々あった。あふれんばかりのトルクの中で、6段A/Tは少しもショックを感じさせないまま粛々と仕事をしている(ようだ)。僅か2000回転付近で到達する42.8kgという最大トルクは、4ℓのガソリン・エンジンのようであり、街中でストップ&ゴーを繰り返すより、ワインディングをダラーっとラクチンに流すのに向いている。
やっぱりディーゼルいいなぁ、もし買うとしたらXDで決まりだな〜とか決心をしつつ、25Sに乗り換える。最高出力は25Sの方がXDよりも13ps高い188psだが、走りはじめるとあまりに出力特性が違うので、パワーなんてどうでもよくなる。25Sに乗りはじめて少しの間は、ディーゼルの余韻が残っていたため、ガソリン・エンジンはやけに元気で、しかし上り坂になると少し線が細い感じがしていたのだが、次第にガソリン・エンジンと6段A/Tのメリハリある走りが楽しいと思えてくる。25Sのエンジンはスロットルに対して反応が非常にリニアなので、XDをドライブしていたときよりも右足の捌きが自然と繊細になり、それが楽しさに繋がっているのである。そして25Sはコーナリングにおいて、明らかにXDよりもハナ先というかクルマ全体が軽く感じられるのである。実際に25Sの方が50kgほど車重が軽いのだが、その50kgがXDの場合はもろにエンジン部分に集中しているのでそう感じてしまうのだろう。
両者とも3時間ほど様々なシチュエーションでドライブすることができたのだが、最初のうちはエンジンのフィーリングや音ばかりに着目してしまったのだが、次第にアテンザの楽しさ自体が心地良く感じられてきた。パワートレインと車体のマッチングもいいのだが、電制のダンパーや最近流行りのSPORTスイッチのようなものに頼らず、街乗りからワインディングまでこれだけ一体感のある走りをよく表現できたものだな、と感心させられたのである。
試乗の後、アテンザの開発主査を務めた梶山浩さんとの話の中で氏が興味深いことを言っていた。曰く、スカイアクティブDのような最先端のディーゼル機関でも、まだまだ開発の余地が残されているという。それはおもにスロットルに対するレスポンスの部分。ディーゼル機関はトルクでグイグイと引っ張っていってくれるから、細かな制御の部分まで誰も追求しようとしていないが、今後その部分を突き詰めることで、さらに進化できるシロがある、と。
なるほどこちらもついついトルクに頼った楽な運転で満足してしまった感があるが、本稿を書いている現時点で印象に強く残っているのは25Sのメリハリの方だ。燃費とか加速といった数値的な部分ではなく、ずっと乗っていたくなるような楽しさの面では、今回は25Sに軍配を上げたくなってしまった。そして梶山さんが言っていたリニアなディーゼルの登場にも期待したい。
(文・吉田拓生 写真・田中秀宣)