ミニ・ペースマン・クーパーS

公開 : 2013.03.26 16:48  更新 : 2017.05.29 19:15

走りにもそういうところがある。

ペースマンで街中を走り出してみれば、その乗り心地が出発点であるミニのそれよりもずっと快適であることに気づく。バンプストッパを奥で効かせるように仕立て変えられたアシは期待以上にストロークし、ピレリP7という乗り心地に特徴をもたされたタイヤと、ハイトの高いそのサイズ設定が相乗して、優しい路面当りが生まれている。跳ねるところまで含めてキャラですと開き直っているようなミニ基準車と比べて、鷹揚に路面を処理してくれるのだ。ステアリングを切ったときの挙動もそう。接地点に対してロールセンターも上がっているから、上屋の動きも落ち着いている。重めの反力に抗して切ったとたんに前輪のグリップが強めに立ち上がるあたりはミニとの共通性を感じる——意図的なものだろう——けれど、それ以外のところでは基準車よりずっと乗用車として大人っぽくなった感があるのだ。

しかし、では走りの仕上がりが優秀かというと、そうでもない。ネガキャンとトーインが大きめに入れられた後輪はもうやたらと粘りまくる。ロール軸が前下がりなので、これに対してフロントは明確にロールしながら内側にハナを引き込もうとするのだが、その効果はリヤの粘りに優ることはなく、ステア特性は今時めずらしいほどの明確なアンダーだ。アンダーが強く出る以上それは当然ながらアクセルを戻せば明瞭なタックインが演じられる。かなり古典的な操縦性である。また、試乗したクーパーSでは、低いギヤで雑にアクセルを扱うと184psと24.5kgmを発揮する元気な直4ターボのパンチに前サスが負けて、フロントが暴れることがあった。また、高速では重いバネ下の質量が乗り心地を荒らす場面が出てくる。低速では平均を超える仕上がりと思えた電動パワステも、高速では微舵の煮詰めが甘いと分かってくる。舵が戻る時に中立付近にフリクションがあり、手で補ってやらないとぴたりと直進に戻らない。

もともとニューミニは先代も現行も、仕上げや煮詰めの領域が粗いクルマで、ルックスのみならずその粗さを含めたところをキャラクターとして確信犯的に構築した商品だった。ここまで検分してきたようにペースマンも丁寧に磨き上げられた自動車ではない。その一方で、ミニ基準車に比べれば機械としての器は大きくなっている印象で、粗さは粗さとして、いくぶん大人っぽくなった感じは確かにある。初めてニューミニ一族を検討しようというひとに無条件にお薦めできるモデルとは言えないけれど、先代から買い替えたりするのであれば、そこに意味は見いだせるように思う。

(文・沢村慎太郎 写真・花村英典)

関連テーマ

おすすめ記事

 
最新試乗記

人気記事