岐路に立たされたランドローバー・ディスカバリー 次期型で大胆刷新、家族向け高級SUVとして再出発?

公開 : 2023.10.24 18:05

あの「人気車種」の影に隠れがち……

ディスカバリーの2モデルの販売実績、ディフェンダーの影響、そして小型EVのディフェンダー・スポーツ導入の可能性を考えると、すでにジャガーで行われているような深い再考を、ディスカバリーが必要としているのは当然のことだろう。

現行型ディスカバリーの販売は、世界を熱狂させているとは言い難い。2022年3月から2023年3月までの1年間で、スロバキアにあるJLR工場から出荷されたのはわずか1万2000台強。対照的に、ディフェンダーは7万5000台が販売された。

非対称のリアエンドなど、伝統的なデザインがディスカバリーを際立たせるだろう。(編集部作成予想CGイメージ)
非対称のリアエンドなど、伝統的なデザインがディスカバリーを際立たせるだろう。(編集部作成予想CGイメージ)    AUTOCAR

2019年の4万1000台を境に、長い転落が始まった。2020年には3万3600台にとどまった。もちろん、世界的な半導体不足と新型コロナウィルスによる操業停止に苦しむ中で、ディフェンダーの生産を優先することは明らかだった。

しかしそれでも、歴代ディスカバリーに近いスピリットを持つディフェンダーが、兄弟から売り上げを大きく奪っているのは明らかだと関係者は言う。

ディスカバリー・スポーツもまた、発売から8年が経過し(2019年に全面的なアップデートを受けたが)、さすがに色あせてきている。

2019年に8万8000台、2020年に7万5000台が売れた後、2022年3月から2023年3月にかけての販売は約3万6000台にまで落ち込んだ。ここでも半導体不足、旧式化、そして新しいライバル車の犠牲となった。

1989年に誕生し、ランドローバーの運勢を大きく押し上げたディスカバリーシリーズは、明らかに中年の危機(ミッドライフ・クライシス)に瀕している。第5世代ディスカバリーは新型ディフェンダーに駆逐され、ディスカバリー・スポーツは旧式化し、大変な競争にさらされている。

他のブランドとどう差別化するか

また、2026年に第6世代としてデビューする新型ディスカバリーは、EV用プラットフォーム「EMA」を採用する可能性が高まっている。

EMAプラットフォームは、すでに3つのモデル(レンジローバー・イヴォーク、ディフェンダー・スポーツ、そして第3の新型車)への採用が決定していると見られており、新型ディスカバリーの確かなマーケットを見つけることは特に難しい。

第5世代となる現行型は、レンジローバーと同じD7uプラットフォームをベースにしている。
第5世代となる現行型は、レンジローバーと同じD7uプラットフォームをベースにしている。

では、2026年に向けてディスカバリーを再定義するにあたり、キーワードが「ファミリー」と「スペース(室内空間)」しかないような場合、いったい何から始めればいいのだろうか? JLRが2026/2027年までに6車種のSUVモデルを販売することは決まっており、もう1つ追加しようとすることにどんな意味があるのだろうか? そして、単なるファミリー向けSUVではないランドローバーとは?

新型ディスカバリーのコンセプトは、他の2つのブランドとの関連性においてまとめることができるかもしれない。

JLRのチーフ・クリエイティブ・オフィサー、ジェリー・マクガバン氏が夏に行ったプレゼンテーションを掘り下げてみよう。彼は、同社の全体的なビジョンは「世界で最も目の肥えた顧客のために、世界で最も魅力的なモダン・ラグジュアリー・ブランドの誇れるクリエイターになる」ことであり、ハウス・オブ・ブランズ戦略では「確立されたモダニズムのデザイン哲学」を使用しながらも、各ブランドが「集中的にキュレート」され、しかし明確に差別化されると述べた。

プレゼンテーションの中で彼はさらに、各ブランドの「起点」を定義した。レンジローバーは「英国の独創性」、ディフェンダーは「英国の冒険」、ディスカバリーは「英国の独創性……どんな家族でもどんな瞬間でも楽しめるようにデザインされている」。

また、各ブランドの「美学」として、レンジローバーは「アイコニック」、ディフェンダーは「ヒロイック」、ディスカバリーは「人間中心」と定義。クラフトマンシップにおいては、レンジローバーは「最高級」、ディフェンダーは「耐久性」、ディスカバリーは「多用途」とした。

つまり、ディスカバリーは比較的裕福な家族向けのクルマであり、デザインの独創性が際立ち、人間中心で適応性があり、さまざまな役割を果たすことができる、という方向性を持っているようだ。

それはどちらかというと、高級ミニバンの内装を、一定の悪路走破性能を備えた美しいボディで包み込んだような感じだが、無骨で機能的すぎるものではない。タフな高級素材で裏打ちされた、本物のスタイルを備えたものだ。7人乗りは確実だろう。フォードSマックス、メルセデス・ベンツEクラス・オールテレイン、アウディQ7のブレンドといったところか。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    平成4年生まれ愛知在住。幼少期から乗り物好き。住宅営業や記事編集者といった職を経て、フリーランスとして自動車メディアで記事を書くことに。「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。

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