メルセデス・ベンツSLK200
公開 : 2014.01.30 16:58 更新 : 2017.05.13 12:51
ひと通りマニュアルシフトを堪能し、久しぶりに酷使してしまった左足を労わる意味もあって(笑)、今度はクルージングモードを試してみる。エンジン回転を高く保ってパワフルに楽しむなら、ギヤは4速以上いらない感じだが、“オトナのマニュアル乗り”に徹するなら、高速では6速ホールドがお薦めだ。エンジンパワーは柔軟なので、トップギヤだけでもあらゆるスピード域をしっとりとカバーすることができる。2000rpmを切るほど低回転域から再加速を試みてもノッキング(懐かしい!)の前触れのようなものは一切ないので、シフトダウンの回数も最小限に抑えられる。走り屋小僧のように慣れないヒール・トゥをかまして、パッセンジャーの首を前にカックンとさせるなんて、オトナのマニュアル乗りとしては失格なのである。
SLKのM/T仕様は、以前からドイツ本国には存在したが、今回その導入を提案したのは日本側だったという。おそらく提案した人の意図としても、ひっちゃきになってシフトレバーを掻き回すより、ゆったりと高めのギヤで走ることを想定していたに違いない。なにしろコレはトヨタのハチロクではなくメルセデスのSLKなのだから。
今回の試乗車にはAMGスポーツパッケージが組み込まれていた。それによってタイヤサイズが標準の17から18インチにアップし、スポーツサスペンションも装着されている。このため乗り心地は少々硬めだったのだが、18インチのタイヤ自体は充分に履きこなせていると感じた。だがウェットの路面ではやけにチカチカとESPのランプが灯っていたので、SLKというクルマはわりとタイヤのグリップありきなんだな、と感じてしまった。つまりM/T仕様がSLK350にも用意されたら、パワーがありすぎて案外バランスが悪いんじゃないかと思う。
’60年代から’70年代には、当時高級だったA/T車のリヤに、これ見よがしに“AUTOMATIC”というエンブレムが輝いていたものである。ところが、ただSLK200としか主張していない今回のSLKの素っ気なさを見るに付け、現代はその逆もありなんじゃなかろうか、と思ってしまった。つまり「コッチはちゃんとクラッチ踏んでるんだぞ!」的な主張を外に向けるかたちで“MANUAL SHIFT”とか“MT”といったエンブレムを掲げるのである。おそらくSLK200ブルーエフィシェンシーMTが大好評だったとしても、比率から言えばA/Tモデルの販売台数に敵うはずはないだろうし、少数派だからこそ“MT”エンブレムの価値も高まるのである。
マニュアルギヤボックスを搭載したSLK200は、髪の毛に白いものが混じってきた年代の人が、もう一度マニュアルシフトを楽しみたいけど、今さらハチロクなんて……という場合に最適な1台。こういうクルマは今までありそうでなかった。
(文・吉田拓生 写真・田中秀宣)