ベントレー・コンチネンタルGTスピード

公開 : 2013.02.26 17:12  更新 : 2017.05.29 19:03

バネ下のあしらいも見事だ。段差乗り越えをすると、瞬間的にはさすがに35扁平21インチが強張った感触を返してよこす。しかし直後にアシは柔和に沈み、その反動で上屋が優雅に持ち上がり、しかる後に再びはんなりと沈んで、かすかな揺れ返しとともに全てが終了する。エアばねとダンピングの電制は4段階に切り替えることが出来るが、こういうアシさばきの味わいはどれでも統一される。最弱だと高速で抑えが少し足りない挙動になり、最強だと路面当りが少し濃くなるといった違いがあるだけだ。

スタビリティの作り方も独特である。フロントヘビーの4駆だから直進は得意で当然だという理屈から想像されるそれではない。動くアシで穏やかに身を揺らせながら、GTスピードは悠然と落ち着いて突進する。625psと81.6kgmは、そんなアシ周りと4WDが無言のうちに吸収して、滑るように、しかし結構な勢いで加速をするのだ。今回の仕様変更を期に前後駆動力配分が40:60に変わった由だが、不自然に後ろから蹴るような感触ではない。豪快と静謐が共存するそれは特異な動的世界である。

VWもアウディも、決してこうではない。これと同系統の要素設計を有するそれらドイツ製のクルマは、機械設計がそのまま投げ出されているような感触を呈する。なぜそうなるのか設計要素からは想像できないこういう所作は、演じてくれない。ドイツ人の仕上げ能力が劣るのではない。英国人が巧すぎるだけなのだ。21世紀の初めにRRと分断されたとき、英国の開発陣は生産施設とともにベントレー側に残った。その人々の玉成の技の賜物である。

モノコック化されて以降のものしか満足に知らないからベントレーの本質を語る能力があるとは思っていない。だから、これが過去に照らしても立派にベントレーだと断言する勇気はない。だがGTスピードは、間違いなくドイツの元締めたちの製品とは明白に異なる自動車であり、他のどの高性能GTとも違う走りの世界を持つ。たぶんベントレーでなかりせば作ることは能わない機械。群割拠の中、それは立派にプレゼンス光る高性能GTである。

(文・沢村慎太郎 写真・花村英典)

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