マツダ・プレマシー20S-スカイアクティブ
公開 : 2014.01.30 17:23 更新 : 2017.05.29 19:13
現行デミオ以前のマツダは“ひと乗りボレ”をキーワードにしていた。セールスマンを助手席に乗せた短時間のディーラー試乗でも、だれもが直感的にわかるインパクトを重視した仕立てだ。簡単にいうと、入力操作に対して即座に反応するロール剛性の高いシャシーと、わずかな操作でも鋭く吹け上がるパワートレインによる“スポーティ”の演出である。
しかし、マツダはそこから次のステップに進む。それは“スムーズな荷重移動による、Gが滑らかにつながるピークの出ない挙動”というものだった。これが現在のスカイアクティブの基礎となる思想であり、現行デミオのデビュー時は従来のレスポンス命の味わいのなかに、滑らかな荷重移動(≒ロール)を活かすセッティングが取り入れられていた。
その後、スカイアクティブにむけた具体的な研究がスタートし、“マツダの人車一体とは何か”の基本コンセプトが固まって、スカイアクティブの要素技術開発が本格的にはじまった。ちょうどこのプレマシーの開発期間と重なる時期である。だから、このプレマシーにはスカイアクティブの個別要素技術こそ入っていないが、基本的な味つけには、スカイアクティブの基礎研究成果がすでに色濃く反映されている。
マツダの人車一体感の研究では、まず国籍やジャンル、時代を問わずに世間でドライビングフィールが良いとされるクルマを集められた。そして各車の入力と車両応答の時間差、荷重移動とヨーの関連、コーナリング時のアウト側前輪とイン側後輪を結んだ対角線上の荷重移動……などを細かくデータ取りして、マツダの考える“人車一体感”を定量化した。そのときに集められた参考車にはポルシェ・ケイマンを筆頭に、メルセデスW124、はてはルノー・キャトルなどの古いクルマも含まれていたそうである……。
……といった話を、今回の試乗会であらためて力説されたのは「そんなプレマシーの(カタログでは表現できない)良さをもっと知ってほしい」という開発陣の思いの丈によるものだろう。今回はそこにいよいよスカイアクティブな心臓部が搭載されたわけだが、トルク特性とA/Tプログラムはあらためて練り直して、さらに主力の15インチは転がり抵抗と人車一体感を両立させた新開発の専用タイヤである。
新しいプレマシーにはもちろん新たな衝撃はないが、じつに運転しやすいクルマであることは間違いない。操舵と同時にじわりとロールして素直に曲がる所作はなかなか滋味深い。A/Tのプログラムも、スロットルから加速度の意思を読み取って、闇雲にギヤポジションを下げない。こうした作り手の意思を読み取るように乗ると、自然と滑らかな運転になる。さらにプレマシーでは新追加のマツダおなじみの“運転診断機能=i-DM”で積極的に高得点をねらうトレーニングをすれば、意外にも本当に運転がうまくなる。
ここまで全社で徹底した人車一体感の追求とドライブフィールの統一戦略は、長い目で見れば“マツダしか乗らない、乗れない”という得意顧客の育成に、じわじわと効果を発揮することだろう。機能や価格で差別化がどんどん難しくなりつつある今は、とくに先進国市場で、ひとたび獲得したユーザーをいかに囲い込むか……が重要な企業戦略になっているからである。
(文・佐野弘宗 写真・花村英典)