走りの洗練度はトップクラス アウディeトロン GT 長期テスト(最終) 一層の「技術による先進」を期待
公開 : 2023.11.05 20:25
実際の航続距離がアキレス腱
こう考えると、eトロン GTはその中間に収まるように思う。アウディで例えるなら、S8とR8の特徴を掛け合わせたような、絶妙なポジショニングにある。望ましいクルマが出来上がりそうに思えるが、実際そうだった。
イタリアから英国へ戻る途中、eトロン GTはアルプス山脈の険しいワインディングを越え、ドイツの長大なアウトバーンを突き進んだが、そのすべてを自然にこなした。市街地の渋滞に巻き込まれても、静かな車内はリラックスするのにピッタリだった。
長距離旅行を、まったく動揺せずに受け入れてくれた。航続距離という縛りを除いて。
グランドツアラーとして、現在のバッテリーEV技術は充分といえただろうか。少なくとも、筆者の日常には見事にフィットしてくれた。高精度なパワートレインと、活発で静かに市街地を巡れる能力は、筆者の気持ちをしっかり掴んだ。
優しい乗り心地と操縦性との兼ね合いや、パノラミック・ガラスルーフとレザー内装が生む居心地の良さ、精悍なスタイリングなど、現代的なグランドツアラーとして不満ない内容にある。それ故に、380km程度という実際の航続距離は、アキレス腱のようだった。
一層の「技術による先進」を期待したい
欧州各国で急速充電器の普及が進んでおり、数年前のように充電で大きなストレスを感じることはなくなっている。先の利用者がいても、数分待てば大丈夫。eトロン GTなら、15分前後で駆動用バッテリーは満たされる。
もちろん、380km走れるから、普段使いで電欠に陥ることは稀だろう。自宅に充電器を設置していれば、とても快適に付き合えるはず。
それでも、「技術による先進」をキャッチコピーに掲げるアウディとして、380kmが充分な数字だと筆者は思わない。テスラやメルセデス・ベンツ、ヒョンデなどは、より安価なモデルで、優れた動力性能と航続距離を実現している。
eトロン GTは、沢山の魅力を備えたバッテリーEVだと思う。だが、革新性でクラスを牽引するほどではない。550kmが現在の理想値かもしれない。2代目では、それ以上が叶えられると期待したい。
セカンドオピニオン
eトロン GTの内側にある技術が、革新的だとはいえないだろう。より遠くまで、より速く走れるバッテリーEVを、英国では3万ポンド(約543万円)前後で探せる。
しかし、スタイリングは凛々しく存在感がある。自動車の転換期にある今、歓迎すべきデザインの進化だといえる。 フェリックス・ペイジ