マセラティ・グラントゥーリズモ・スポーツ

公開 : 2012.12.26 18:45  更新 : 2017.05.29 19:12

もっとも、Sportモードでもサスペンションはそれなりにしなやかで、荒れた路面でもタイヤはしっかりと接地している。車両感覚や接地感は911やアウディR8ほど絶品ではないものの、薄氷を踏むほどデッドでもない。パワーを遠慮なく解き放てばテールは狂ったように踊りまくるが、かといってドライバーが自制心を忘れなければ、多少はテールを振りながらも前にだけはしっかり進む。トランスアクスルならではのトラクション性能がありがたい。ロックtoロック3.0回転という比較的スローなステアリングレシオも、この超高性能グラントゥーリズモをギリギリで踏みとどまらせている秘訣かもしれない。Sportモードのスロットルといい、このステアリング設定といい……遠慮なしのお祭り騒ぎを演出しつつも、こうして細かいところで手綱を締める目利きはさすがである。

……と、私なりにグラントゥーリズモ・スポーツの楽しんでいるうちに、雨が降り出してきた。緊張感を高めつつもさらに踏み込んでいったら……ほとんどなんの予兆もなく、いきなりブレーク! そういえば、最初に熟読した取扱説明書には「雨天時はMCシフトとSportモードは使わないでください」とあった。最初は「ただのアリバイづくりか?」と読み流していたが、それは真面目な注意書きだった(笑)。

グラントゥーリズモ・スポーツが、ウェットでは世界でもっとも細心の注意を必要とするクルマであることは確かだが、そういう場合でもAutoモードにすると随分に扱いやすくなる。低速・低グリップでもしなやかに接地して、スタビリティ制御もかなり安全マージンを取るようになるからだ。ただ、そうなると、パワートレインもおとなしくなるのが少し残念。惜しむらくは、マセラティのモード切り替えがダンパー、エンジン、トランスミッション、スタビリティ制御のすべてを一括制御しており、個々に任意の切り替えができないことだ。前記のようにSportモードでも右足に直結したリニアリティは損なわれないので、こうした悪条件で楽しみたいときは「パワートレインがSport、アシがAuto」という組み合わせがほしくなる。この点では、それが可能なポルシェに一日の長がある。

いずれにしても、このマセラティのスポーツクーペは、豪快な吸気音と乾いた排気音、そしてとてつもなくキレ味が鋭いトランスミッション……というF1マシーンのようなパワートレインを愛でるクルマである。操縦性はそれなりにクセがあり、ナメてかかると痛い目にあいそうな緊張感があるが、グラントゥーリズモ・スポーツは今もっとも快音を奏でる4シーターFRといっていい。

(文・佐野弘宗 写真・神村聖)

マセラティ・グラントゥーリズモ・スポーツ

価格 1800.0万円
0→100km/h 4.7秒
最高速度 300km/h
燃費 6.5km/ℓ
CO₂排出量 360g/km
車両重量 1920kg
エンジン形式 V8DOHC,4691cc
エンジン配置 フロント縦置き
駆動方式 後輪駆動
最高出力 460ps/7000rpm
最大最大トルク 53.0kg-m/4750rpm
馬力荷重比 240ps/t
比出力 98.1ps/ℓ
圧縮比 11.3:1
変速機 6段自動M/T(MCシフト)
全長 4935mm
全幅 1915mm
全高 1355mm
ホイールベース 2940mm
燃料タンク容量 86ℓ
荷室容量 260ℓ
サスペンション (前)ダブル・ウィッシュボーン
(後)ダブル・ウィッシュボーン
ブレーキ (前)φ360mmVディスク
(後)φ330mmVディスク
タイヤ (前)245/35R20
(後)285/35R20

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