MTでEVは面白くなる? トヨタが本気で開発するギミック・マニュアル 半クラやエンストも再現

公開 : 2023.11.11 19:05

特定のモデルを疑似体験させるソフトも

調整が必要な部分は残っている。シフトアップ後のトルクの変化は、自然には感じられなかった。それでも、既存の電動ハッチバックやクーペで試したいと思えるほど、魅力的なシステムだと思えた。

ドライバーとの一体感をどう高めるかは、現在のバッテリーEVの大きな課題の1つといえる。ヒョンデも同様のシステムを開発中ではあるが、多くのクルマ好きへ希望を与えるような、意欲的な取り組みといえるだろう。

ギミックのマニュアル・トランスミッション・システムを実装した、レクサスUXのプロトタイプ
ギミックのマニュアル・トランスミッション・システムを実装した、レクサスUXのプロトタイプ

さらにトヨタは、特定のモデルを疑似体験できる、バッテリーEV専用のオンデマンド・ソフトウエアも開発している。体験したベース車両は、レクサスRZ。これに、トヨタ・パッソとタンドラ、レクサスLFAを模した試作ソフトウエアが実装されていた。

この技術は、上記のマニュアル・システムより遥かに開発初期の段階にある。同社の技術者が助手席へ座り、ノートパソコン上から疑似体験したいモデルのソフトウエアを呼び出す必要があった。

まずは、レクサスRZでスタート。といっても、ベース車両だから普段通り。

パッソの特性へ切り替えてもらうと、突然パワーが弱くなる。RZの軽快感と比べると、ハンドブレーキをリリースし忘れた時のように、加速が鈍い。車内には、小さなエンジンが頑張っているノイズが響く。なかなか面白い。

目標は1000車種の疑似体験

次に、V6ターボガソリンのハイブリッド・ピックアップトラック、タンドラへ切り替えてもらう。加速時にはエンジンの唸りが響くが、速度が安定するとハイブリッド車らしく静かに落ち着く。

最後はLFA。大げさな演出が待っているのかと想像したが、期待ほどではなかった。人工的な味付けは、そこまで強くはない。テレビゲームのエンジン音のような、甲高いサウンドがスピーカーから再生される。聴覚的には、かなり速い。

特定のモデルを疑似体験できるオンデマンド・ソフトウエアを実装した、レクサスRZのプロトタイプ
特定のモデルを疑似体験できるオンデマンド・ソフトウエアを実装した、レクサスRZのプロトタイプ

とはいえ、RZをLFAのように感じさせることは簡単ではない。5ドアの電動SUVと、2シーターのスーパーカーはまったく違う。

トヨタは、Arene(アリーン)と呼ばれる独自のソフトウエア・プラットフォームをベースに、次期のバッテリーEVで1000車種を疑似体験できるようにするという。残るタスクはかなり多そうだ。

マニュアル・システムの完成度を踏まえると、トヨタの技術者が目指す水準は間違いなく高いだろう。彼らは、そこへ到達させる方法を理解しているのかもしれない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーク・ティショー

    Mark Tisshaw

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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