ベントレー・コンティネンタルGTスピード vs メルセデス・ベンツS63 AMGクーペ
公開 : 2014.11.04 23:50 更新 : 2017.05.29 19:32
ウェールズの中腹に差し掛かったところでS63のシャシー・セットアップを変え、コーナーのリーンイン時にロール角を減少させてくれる機能(ACT:アクティブ・カーブ・チルティング)を試してみることにしたのだが、対向車と譲り合いながら進んでいくような路上環境ではこの機能を体験することが難しいことがわかり、代わりにスポーツ・モードに切り替えてみた。
S63 AMGサルーンに乗った際のハンドリングはとても感動できるものだったのだが、ラグジュアリー・リムジンから想像する操舵感覚とは少し毛色がちがうのだ。基本的にはクーペも、サルーンのそれを踏襲しているのだけど、やはり私の高速クーペに期待するものとは少し違った。
人工的なステアリング・フィールが大きく影響しており、狙ったライン上を走るのが意外にも難しいのだ。電制サスペンションなどのギミックがこれでもかと備わっているにもかかわらず、私が期待していた盤石のボディ・コントロールはそこにはなかった。
対するベントレーはどうかというと、不思議なことに、メルセデスの中で苦労している間、ミラーからコンチネンタルが遠ざかることは一度もなかった。そのうえ、必至に食らいついているという風な印象もなく、どちらかというと涼しげな表情で追従してくるのだ。
その理由はすぐに明らかになった。今回のテストに使用したルートには、規則正しいベンドなどはひとつもなく、どれもがそれぞれ不規則に連続している。客観的にみて、ブレーキを始めとする動力性能をつかさどる部分は、ベントレーはメルセデスに劣っているのは明らかなのだが、このような九十九折では個人的にはさしたる問題はそこにないと感じた。要するにパワーやトルクなどの数字がメイン・トピックではなくなってくるのだ。
そして、これこそがベントレーの強みでもある。古風な油圧ステアリングは、メルセデスにはない味わいを与えてくれるし、テクノロジーが満載というわけではないのだが、シンプルな分、コントロールし易いのだ。
ピッチングやうねりは少なく、中速域での回頭性はメルセデスよりも素早い。’素早い’ という表現を使うことができる、6ℓの12気筒ツイン−ターボ・エンジンを載せた2.3トンもの4WDが他にどこにあるというのだろうか。ホイールベースの短さはことのほか重要なのだ。
ただこれらの違いが、全般的な印象にどれほどの違いを与えるのかも気になるところである。スポーツカー以上にスポーティーなこの2台。ベントレーの方がゾクゾクとする感覚に欠ける、ということを思い出せば、どちらが優れていて、どちらが劣っているかを見極めることはとてもむずかしい。
しかし、どちらに賢さがあるかという観点で見れば、私は絶対にS63のほうをとる。足捌きは手際がよく、キャビンの前後や荷室のスペースなど、コンチネンタルよりも余裕を感じる点が大きいからだ。クルーズ時はより静かで、数々のギミックを試してみるのも非常に楽しい。知らない機能を探りながら付き合っていくことを想像すればなおさらである。
一方、インテリアのデザインに難癖をつけようと思えば簡単なのだけど、伝統的なマテリアルとモダンな思想とが複雑に絡みあう洗練を、私は好意的に受け入れたいと思っている。
ベントレーのシンプルなアナログ・メーターやナビゲーション・システムもフォルクスワーゲンとは全く異なった手法でしつらえており悪くはないのだが、S63を見た後に、それが最上かと問われれば答えに窮してしまう。